白虹学園
2
『ナガメぇ、電話待ってたよぉー』
「うん、ごめんな、待たせて」
『今さぁ、ナガメのウワサしてたんだよぉ』
「え?」
『ナガメ、新しいガッコーでイジメられてたりしないよねぇー?』
「あー」
四堂達にはほとんど黙ったままで白虹学園に編入してしまった。言ったら決心が鈍るっていうのもあったけど、何より泣いてしまいそうで恥ずかしかったからだ。
『………イジメられてるのぉ?』
田坂の声がすっと沈む。
「あ、いやいや、ちょっとケンカしてるだけ」
『じゃー、オレそいつ殺しに行くよぉ。目ツブすのと歯ァ折るのとどっちがいいかなぁー?どっちもぉ?』
相変わらず女の子みたいなかわいい声で、こいつはとんでもない事を言うなぁ。
「田坂、気持ちは嬉しいけど暴力はいかんぞ」
『へへぇ』
ちょっと怒るような口調で言ったのに、田坂は嬉しそうに笑った。
『長雨、本当にいじめられてるのか?』
真剣な声にかわる。中野だ。
『あのさ、本当に無理しなくていいから、きつかったら帰ってきてくれよ』
「ああ、ありがとう、中野。でも大丈夫だよ」
『あ、ていうか、あのさ、』
「ん?」
ちょっと迷うような間があった。
『俺らは…少なくとも俺は、いつだって長雨に、あ、会いた、い、しさ』
あら。
『だ、だからなんていうか、無理はしないでほしいし、いつ帰ってきてくれてもいいし、むしろ帰ってくるの待っああ、おい四堂!』
『長雨』
中野の緊張した声が途切れた。四堂に固く名前を呼ばれる。後ろで中野が嘆く声が聞こえた。
「四堂か?中野は平気?」
『気にすんな』
「礼伝えてもらえるかな」
『あ?』
「すごく嬉しい」
四堂は一瞬黙った。俺は、こいつの事がとても好きだった。ただ悪ぶっているように見えて、きちんと周りを見てる。個性の塊みたいな宮城達をしっかり受け止めて、全員と向き合っている。俺も、彼と向き合う事で救われた。
『何かあったのかよ』
「うーん、ちょっとな、リンチされちった」
『はぁ!?』
「でも大丈夫。なんとかするよ」
ふ、と笑ってしまった。いろいろあって、俺は四堂達にも一番最初、ボコボコにされていたりして。
「売られたケンカは買う主義なんだ」
四堂が少しだけ笑った気がした。
『知ってる』
「だろ?」
『長雨』
「うん?」
『負けるなよ』
言ってもらいたかった言葉だった。
「ありがとう、四堂」
さぁっと風が吹いた。暖かい風だった。
春ももう終わる。
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