白虹学園
屋上の春風
奴らに電話をするなら、屋上でと決めていた。
数週間迷っていたのが嘘みたいに、その日の昼、からりと晴れた空の下で、あの番号を呼び出す事が出来た。
何回かのコール音のあと、プツッ、という音がする。
繋がった。
『…もしもし』
戸惑うような声。ああ、懐かしいなぁ。数週間離れていただけなのに。
「久しぶり」
元気だったか?と訊こうとしたら、ぐぇっ、と、カエルが潰されたみたいな声がした。
「えっ、四堂?」
何だ何だ。
『ナガメぇーーー!!』
語尾を伸ばす独特のボーイソプラノが耳を突き抜けた。
「おう、田坂、元気かー?」
返事はなくて、ぎゃいぎゃいと受話器の向こうで叫び声が聞こえる。
『中野だけど元気か!?次いつこっち戻ってくる!?』
喜々とした様子を隠さない声に頬が緩んだ。
「元気だよ、中野。次帰るのは多分…」
『ナガメ愛してるぅーーー』
答えの途中でまた田坂のシャウトが聞こえて、喉で笑ってしまう。
「俺も愛してるよー」
『てめぇらざけんな!うせろ!どけーーー!』
どうも携帯を奪い合ってるらしい。あーおもしろい。しばらくバトルの様子を肩を揺らしながら聞いていたら、不意に低い声が耳に響いた。
『水上、元気か?』
『『『てめぇ!!!』』』
涼しげな声の後にキレイに三人分のツッコミが入った。
もうダメだ。限界。
「あっはははは!相変わらずだなみんな」
『まぁ、こっちはな』
電話の相手は、前の学校でのクラスメイト達だ。
リーダーは四堂真帆(しどう まほ)。
意地っ張りで、仲間想いで、ありがとうがきちんと言える奴。
今電話に出てるのは四堂の相棒、宮城慎(みやぎ しん)。寡黙で聡くて、面倒見が良い。
女の子みたいに可愛いのに凶暴で素直な田坂春樹(たさか はるき)。
いつもうつむきがちだけど素直でひたむきで、いろんなことを考えている中野秀治(なかの しゅうじ)。
みんなむちゃくちゃで、がんばり屋で、かわいい奴らだ。
『お前は元気か、水上』
宮城が携帯を持って少ししたら、後ろが静かになった。どんな手を使ったか分からんが、さすが宮城。四堂ファミリーの女房役ですものね。
「おう、元気にやってるよ」
『そうか。真帆にかわるぞ』
前触れもなく、宮城の気配が遠ざかった。
『は?…な、何なんだよ、いきなり』
四堂の声がかすかに聞こえる。いきなり携帯返されて慌ててるんだな。ふふ、恥ずかしがり屋だー。
『じゃ、オレかわるぅ!』
高めの声が近づいた。田坂だ。
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