白虹学園
4
「なっ」
「佐助」
抵抗する間も与えずに、ぐいっと部屋の中に顔を向かせた。部屋を埋め尽くすような書類の山がそこにある。さっき拾い上げた書類に綴られていたのは、
砂川達のこと。
一之瀬のこと。
テープレコーダーの会話内容。
あの夜の容疑者達のアリバイ。
打撲が早く治る方法。
包帯の上手な巻き方。
よく効く痛み止めのリスト。
顔面を強打した時の対処法。
腫れをひかせる方法。
歯に異常がないか調べる方法。
口内の傷の治療法。
「お前の仕事が、お前の言葉は嘘だって言ってる」
俺は知っている。
佐助は多分俺の事をすごく、
すごく大切にしてくれている。
「っ………!」
冷たい仮面が脱げた。
佐助は小さな男の子みたいな顔になった。いや、違う。小さな男の子なんだ。たったの17歳だ。今までの佐助が一生懸命、大人の振りをしていただけだ。
「おまえは」
佐助の声は震えていた。黒い瞳が初めて俺を映す。
「おまえは何も分かってないんだ。俺の仕事がどんなに危険か。どれだけ恨みを買うか。どれだけ嫌われるか」
ふと、佐助のルームメイトの事を思った。書類はルームメイトの部屋まで埋めていた。もしかしたらもうずっと前から、佐助のルームメイトも帰ってきていないのかもしれない。『情報屋』を恐れて。
「お前が倒れてるのを見つけた時」
佐助はシンクの端を握っていた。その指先が白い。
「一瞬高見沢の仕業だと思った。でもその後、俺に恨みを持つ奴の仕業かもしれないと思ってぞっとした」
そういえば、最初から佐助の態度は妙だった。高見沢の証拠が見つかる度、安心してるみたいだった。
「俺は高見沢が犯人であってほしかった」
佐助は俯いてしまった。
「高見沢が犯人なら、俺は悪くないから。本当は、奴らがお前に目をつける前にお前から離れようと思ってた。それならお前は俺のせいで殴られたりしない」
[前へ][次へ]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!