白虹学園
3
声を聞いて、名前を聞いて、瞳を見つめても分からなかった。
「俺は、一之瀬にすごくひどい事を言ったのかもしれない。」
『一緒にいられない』と、俺は確かに一之瀬に言った。もし彼が『ろっくん』なら、
「俺は恨まれても仕方あうい」
ああ、また頬をむにっとやられました。
「とんでもないお人好し野郎だなお前は」
高見沢は相変わらずつまらなそうな顔で俺を見下ろす。タバコの匂いがつんと鼻を刺激する。
「忘れたのはてめぇのせいか?」
「へ?」
そりゃもちろん…
「忘れられた野郎がその程度だったんだろうが」
…………………えええ?
「情報屋ほだして、生徒会の男女口説いて、俺みたいのにまでいちいち声かけて、その上欲張って記憶にも残らねぇどうでもいいもんにまでかまけてんじゃねぇよ」
「……………ふはっ」
頬を押さえられたまま笑ってしまって、息が零れるみたいな変な声が出てしまった。
「だから笑うな」
「ちあう………ちょ、ちょ」
『違う』と言おうとして失敗した。頬を掴む高見沢の手をばしばし叩く。
まさか高見沢に説教くらうとは思わなかった。しかも正論だ。
また頬を解放してもらう。その頬に、さっきとは違う笑みが自然と浮かんだ。
高見沢を見上げる。金色の髪。たくさんのピアス。焦げ茶のきれいな瞳。俺とはまったく違う人生を歩んできた、強い強い人。
こいつは今まで自分を庇うことすらやめて、黙って自分の守りたいものを、大切なひとだけを大切にしてきた。
「高見沢はすごいな」
「はぁ?」
「俺も見習う」
高見沢は俺を見下ろして、むっとしたまま言った。
「………やめとけ」
鬱陶しそうに一言だけ言われたのに、
「無理はするな」と言われたような気がした。
高見沢語ですかね。
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