白虹学園
2
「高見沢ー」
高見沢が目線だけを俺に向けた。
「助けてくれてありがとう」
高見沢は不愉快そうに眉を寄せた。え、なんでこっち来るんだ。
「え、うあ」
ずんずん歩いてきた高見沢は目の前で立ち止まった。顎をでかい手のひらで掴まれて、上向かされる。見上げる感じになった。不本意だ。俺は別に自分がチビだとは思わないけど、高見沢の体は細いのにバランスよく筋肉がついていて、自分よりずっと大きく見える。
「たかみ、あわ?」
ぐいっと顎を引かれたから最後までしっかり発音できなかった。アワって。
高見沢は俺の左の頬を見て、顎を引いたり関節を強めに押さえたりした。
「なんだなんだ」
「痛ぇか」
さっき一之瀬を殴った瞬間のギラギラした目とは違う。高見沢は冷静で、ついでにちょっと眠そうだった。声は低くてぶっきらぼうだけど、荒々しさはない。心配してくれたんだろうか。
「大丈夫。ありがとう」
笑ったら、高見沢はどうしてか不愉快そうに顔をしかめた。
「ヘラヘラすんな」
むにっ、と両頬を片手の親指と中指で挟まれた。いたい。
「いや、別にヘラヘラはしてないですが」
「ヘコんでるくせに笑うんじゃねぇ」
「へ」
「あのカスと知り合いなんだろ」
カスって一之瀬の事か。さっきからひどい言われよう。頬が解放される。
「あー…幼なじみかもしれないんだ。だけど、向こうも覚えてなかったみたいだし…」
「探してたのかよ」
焦げ茶の瞳が俺を見つめる。少し、戸惑うみたいに。これでいいのかと迷ってる。それでも、高見沢は目をそらさない。
ああ、こいつ、
話を聞いてくれるつもりだ。
なんだか突然目と鼻の奥が痺れた。やばい、俺泣きそうか。少し不思議だった。佐助にも綾先輩にも話していないのに。
「探してた訳じゃない。でも、」
本当は、夢を見るたび自分がひどい人間なような気になった。
「俺は彼の事を何一つ覚えてない。多分すごく大切だったのに」
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