白虹学園
彼の言語
有坂銀太くんはすごく良い奴で、多分俺の事が嫌いだ。
「じゃあ、明日のお昼に生徒会室で会いましょう。有坂くんも来ると思うから」
綾先輩にその微妙な真実を伝える訳にもいかず、アポを取り付けてもらってしまった。
「よろしくお願いします」
うむ、でもなんとかなるだろう多分。なせばなる。なさねばならぬ何事も。昔の人は良い事言いました。
ミルクティーを飲み干した。カップをシンクに持っていこうとしたら、綾先輩に引き止められた。
「片付けなんていいから。もう休んで。お話できてよかった」
花が咲くように笑む綾先輩に思わず見とれた。そっとカップを奪われる。
「俺も、よかったです。それじゃ、すみません長々とお邪魔して。ごちそうさまでした」
「いいの。良ければまた来て。ゆっくり休んでね」
「はい」
綾先輩に頭を下げて、踵を返した。玄関のドアノブに手をかける。
「長雨ちゃん」
不意に、綾先輩が静かな声で俺を呼んだ。どきっとした。振り返る。綾先輩は子供をあやす瞬間みたいな表情で俺を見つめていた。
「大丈夫…?」
「?はい」
どうして心配されたのか不思議だった。殴られたのはたったの一発だ。首だって、高見沢の時ほどの苦しさじゃなかったしな。
「…何かあったらすぐ呼んでね」
綾先輩は俺の答えには安心しなかったみたいだ。
「大丈夫です。ありがとうございます」
不安げな表情のままの綾先輩にお礼を言って別れた頃には深夜4時を回ろうとしていた。
戻ったら、部屋中がけむくて真っ白になっていた。
「うわー」
タバコくさい。中に入ると、ソファに座っていた高見沢が俺を振り返る。
「……………」
黙って睨まれる。あれ、寝るんじゃなかったのか。もしかして待っててくれたんだろうか。
「ただいま」
この言葉を使うのは久しぶりだった。
「……………」
高見沢は何も言わずに視線を戻して、ビールの缶でタバコをもみ消してソファを立った。ん、ビールの缶?こんなものいつの間に。悪ガキめ。
高見沢はそのままバスルームに入っていこうとする。
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