白虹学園
3
「会長にはそれがないってことですか?」
「そう。私は会長の『長所』は挙げられる。だけど『好きなところ』は挙げられない。多分ほとんどの人がそうだと思うの。あの方とは、深く付き合えない」
「どうして、ですか?」
「うーん…」
ちょっと困ったように綾先輩は笑う。
「今はこうやって他人事みたいに言ってるけど…私だってそうだったのよ。ううん、今だってきっとそう。長雨ちゃんが来て、あなたに初めて自分を出せたの」
「そ、それは光栄です」
こ、殺し文句だ。顔があつい。
「私は恐かった」
綾先輩の声が何かを思い出すみたいにすぅっと沈む。それは、出会った直後の綾先輩の表情だった。優秀で美しい、『完璧』な先輩。
「自分が不完全な人間だと思われるのが恐かった。そうしたらもう誰も自分を慕ってくれないんじゃないかって思った。だから自分の胸の内なんて、誰にも見せられない。私はそうだったわ」
綾先輩が俺を見て悲しげに笑んだ。
「ごめんなさい。本当に勝手な意見だわ。会長がどうかは分からない」
「いえ、すごく参考になります」
思わず綾先輩をじいっと見つめてしまう。先輩がちょっと困った顔になって、俺を見つめ返す。
「な、なに?」
「いや…綾先輩みたいにきれいな人もそんな風に思うんだなぁと思いまして…」
「えっ」
「え?」
綾先輩がかぁっと赤くなる。うわ、かわいいー。女の子みたいだ。
「あ、ありがとう」
真っ赤になったまま、綾先輩が耳に髪をかけ直す。『きれい』なんて死ぬ程言われてるんじゃないかと思うんだけど。謙虚な人だなぁ。
「で、でも、私の意見以外も聞いた方がいいんじゃない?」
「そう、ですね。でもできるだけ内密にしたいんです」
「任せて。私、口が堅くて客観的に意見が言える子を知ってるわ。少し毒舌だけど」
「誰です?」
綾先輩はにこりと笑って、意外な名前を出した。
「生徒会会計代理の、有坂銀太くん」
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