白虹学園
恐いこと
綾先輩が白くてまぁるいカップに淹れてくれたミルクティーは、優しい香りがした。
まだ湯気の立つカップに口を近づける。熱そうだな。ふー、ふー、と何度か息を吹きかけて、すすす、とゆっくり口に含む。
濃い甘さと紅茶とミルクの柔らかな口当たりに思わず息を吐いた。
「おいしいです」
「本当?嬉しい」
どこもかしこも甘いお菓子みたいな綾先輩に、よく似合う紅茶だ。本当に気持ちが落ち着くなぁ。
「佐助ちゃんにも飲んでもらいたかったのに、せっかちな子ね」
「今度は引きずってきますよ」
「そうして」
ふふ、と綾先輩が笑った。カップを口元に寄せて、その目を細める先輩がきれいだった。
「でも、良かった。これでもう、長雨ちゃんが傷つけられたりしないわね」
うーん。
確かに、俺が傷つけられたりはしないだろう。だけど、高見沢はどうだろう。
一之瀬からカードを取り戻した事はすぐに砂川達に知れると思う。砂川達はどうするか、想像は簡単だ。きっと一之瀬に怒りをぶつける。それからその怒りは高見沢に向く。
どうしたら止める事ができるかな。
「長雨ちゃん」
気づいたら、綾先輩に顔をのぞき込まれていた。
「何考えてるの?」
しまった、また心配げな顔をさせてしまった。
「私は力になれる?」
どきりとした。綾先輩の透明な瞳が俺を見つめる。
「ええ、と」
カップをソーサーに置いた。どうしようか。うまく訊く方法が思いつかない。この人に嘘はつきたくない。
「……なぜ気になっているのか、理由は言えないんです。そこは訊かないでもらえますか」
結局ものすごく正直でわがままなお願いになった。だけど、綾先輩はすぐに微笑んで頷いてくれた。
「分かったわ。話してみて」
「………教えて欲しいんです」
瞳を見つめる。この人は信頼できる。絶対に。
「教えて、欲しいんです。諏訪原会長がどんな人なのか」
ずっと気になっていたことだった。会長は高見沢に、俺に、多分たくさんの嘘をついている。高見沢のカードキーを作った会長は、この事件に無関係だと言えるのか。
「会長が…?」
一瞬、戸惑うように綾先輩の瞳が揺らぐ。だけどすぐにきゅっと口を引き締めた。
「私の個人的な意見でもいい?」
「はい」
綾先輩は口元に手を当てて、しばらく目を伏せる。そうしてもう一度顔を上げた。
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