白虹学園
4
「ただ、思ったより奴らはずっと慎重らしいな。噂でおびき寄せる作戦にもかかってこなかったし…」
「そうだ、佐助」
今日高見沢と屋上で聞いた話を思い出した。
「ん?」
「あのさ、今日昼休みに…」
佐助と先輩にそれを話した。砂川達が高見沢を血眼で探していたこと。話していたこと。『ラスボス』のくだりまでいくと、佐助の表情が変わった。
「…その『ラスボス』が砂川達に指示を出してるってことか」
「多分そうだと思う」
「分かった。調べてみる」
佐助はソファを立った。
「調べがつくまで少し様子を見よう。一之瀬が捕まってカードが高見沢に戻ってきた今、無闇に長雨には手出しできないはずだ」
「ええ…そうね」
綾先輩はほっと息をついて体の力を抜いた。佐助と目が合う。困ったような顔をする奴に、言わなきゃいけない事があった。
「ありがとう、佐助」
佐助は目を丸くする。
「俺は…何もしてない」
「あら、何言ってるの」
綾先輩が本気でびっくりした顔になる。
「佐助ちゃんの調査と作戦ありきじゃない。ねぇ?」
同意を求められた。当然頷く。俺この人本当に大好きだー。
「うん、佐助のおかげだ」
「やめてくれ」
佐助は立ち上がった。難しい問題にぶちあたったみたいな、複雑な表情をしていた。
「…部屋に、戻ります」
「佐助?」
「……しっかり休めよ、長雨」
「あ、うん、ありがとう」
それ以上何も訊かせずに、佐助は先輩の部屋を出て行ってしまった。
「なんだか変ね、佐助ちゃん」
綾先輩がぽつりと呟く。それは実はこの事件から始まる前からなんだよな。佐助は最近元気がない。すごく深刻な事で悩んでいるみたいだ。
ちらりと時計を見た。うん、でも本当にもう遅いな。
「じゃあ俺もそろそろ…」
「あ、待って、長雨ちゃん」
立ち上がろうとした俺の肩を、綾先輩が制した。
「あのね、美味しい紅茶が手に入ったの。気持ちが落ち着くから一杯だけ飲んでいかない?私が淹れるから」
ね?と首を傾げて言われる。その瞳が一生懸命で、気を遣ってくれてるんだと分かった。思わず頬が緩む。かわいいひとだ。
「それじゃ、お言葉に甘えます」
本当は、俺が何かご馳走しなくちゃいけないくらいだよなぁ。
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