白虹学園
2
「黙ってろ。バレたとしても『あの男』だけだろ。俺らのことまで分かる訳ねぇ」
「そんなの…分かんねぇじゃねぇか」
なんだか順調に揉めてるみたいだ。
「あっちには情報屋がついてるし、すげぇ噂になってるぜ」
「シマ」
砂川の声が遮る。怒りと高揚を含んだような声。やっぱり、あの機械の声によく似てる。
「心配すんな。こっちにはラスボスがついてる」
………『ラスボス』?
『ラストのボス』の略だよな。ゲーム用語の。
最初に言った『あの男』っていうのは、多分高見沢の変装をしてた奴の事だろう。でも、じゃあ、『ラスボス』って?
「いざとなったら水上の方潰しゃいい。他行くぞ。なるべく早く高見沢を潰せ」
「お、おう」
バタバタと屋上を出て行く気配がした。
「…行ったかな」
「多分な」
ふぅ、と二人同時にため息をついた。目が合ってしまった。
「…………」
焦げ茶の瞳が珍しくまっすぐに俺を見据える。少し戸惑う。さっき、怯えてしまったのに気付かれただろうか。
「………どけ」
「あ、すいません」
言われて、いそいそと高見沢の上から降りた。
「ありがとう。助けてくれたんだな」
「るせぇ。ノリだ」
「ノリか」
面倒そうに起き上がる高見沢を見ながら、ちょっと笑ってしまった。高見沢は俺を睨んで、だけど何も言わなかった。
「ケンカ、買わなかったんだな」
「そういう事になってただろうが」
「でも辛かっただろ」
多分、今朝の綾先輩の演説の影響で一番好奇の目を浴びたのは高見沢だ。
だけど、高見沢は誰からもケンカを買っちゃいけなかったし、売ってもいけなかった。それが佐助の作戦だ。
高見沢が鼻で笑った。
「全員殺すとこだった」
「実行しないでくれて嬉しいよ。お疲れ」
ぽん、と、おにぎりのアルミの包みを渡す。ルームメイトはそれを見下ろして複雑そうな顔をした。俺も自分のおにぎりを開く。
「今日はおかかとごま昆布な」
高見沢は黙ったままだった。俺がさっさと食べ始めると、彼もやっとアルミを破っておにぎりにゆっくり噛み付いた。口がむぐむぐ動いているのを見て嬉しくなる。
少しだけ、朝ご飯の時より食べ始めるのが早くなっている気がするな。
[前へ][次へ]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!