白虹学園
朝の教室
「おはよう、垣代」
黒い切れ長の目が俺を見下ろした。
教室の様子は一昨日までとまるで変わらない。ホームルーム前の室内はざわざわと騒がしい。
「………おはよう」
良い声で挨拶を返された。いつもならそれで自分の席に行くはずの垣代は、なぜか今日は俺を見つめたままだった。
「………昨日はどうした」
あら。
「ちょっと腹痛でさ。でももう平気っすよ」
笑ってみる。垣代が頷く。
「そうか」
「心配してくれたのか」
「違う」
無表情で淡々と否定された。ふられました。
垣代はふいと目を逸らして、自分の席へと歩んでいった。相変わらずストイックだ。だけど良い奴だなー。
ちらりと窓際の方を見た。佐助がそこに座ってる。窓の外に目を向けたまま、こっちは全く見ない。息を吸って、吐いた。
一之瀬と武田はまだ来てないな。
「おす、水上」
すぐ隣りから快活な声がした。大牙だ。
「体調はもういいのか?」
ディパックを下ろしながら聞かれた。
「おう、ありがとう」
「なら良かった」
大牙がディパックを机に置く。
武田と、一之瀬が前の扉から入ってくるのが見えた。武田はこっちを見て、俺に手を振ろうとしてくれた。その腕を掴んで、一之瀬が自分の席に向かう。彼は顔を上げなかった。
すぐに川崎先生が入ってくる。
「起立」
垣代の声に立ち上がる。がたがたと周囲も立つ音がした。
「礼」
頭を下げて、上げて、席についた。
「あー…今日は全校朝会なんで全員講堂に集合ー。以上ー」
眠そうに先生が言った。生徒達がガタガタと席を立つ。
「あれ?水上、浅野は?」
一人で行こうとしたら、大牙に不思議そうな声をかけられた。佐助はさっさと教室を出て行ってしまう。
「ああ、ちょっとな」
苦笑すると、大牙は一瞬、少し困ったような顔になった。
「行こうぜ、講堂」
「え?一緒に?」
「おう、たまにはいいだろ?」
「うす」
気を遣ってくれてるんだな。本当良い奴だー。でも同時にちょっと後ろめたいというかなんというか…。
席を立って、大牙と一緒に教室を出る。気付いた時にはもう、一之瀬と武田はいなくなっていた。
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