白虹学園
きみとあさごはん
結局、味噌汁は合わせ味噌にしてみました。
高見沢を食卓につかせて、目の前に炊きたてご飯と、例の味噌汁、鮭のゆずしょうゆ焼き、まだ湯気の立つだし巻き卵、キャベツの浅漬けを並べた。
「…………?」
怪訝そうに、高見沢はそれを見下ろした。
「………ルームサービスにこんなんあったか」
きょとんと見上げてくる目が無防備な動物みたいでちょっとかわいい。笑ってしまった。
「無いんじゃないかな。俺が作りました」
俺と料理を見比べて、その視線が俺で止まった。
「お前が?」
「おう」
そんな珍獣見るみたいな顔されてもな。
「うち両親共働きだったから、慣れてるんだ。良かったらどうぞ。俺も一緒させてくれ」
最後にお茶を置いた。エプロンを外して、高見沢の向かいに腰かける。
手を合わせた。
「いただきます」
茶碗を手に取って、だし巻きを箸で掴む。満月色が食欲をそそる。わー、我ながら上手く焼けたなぁ。
高見沢はやっぱり食ってくれないかな、と思っていたら、ゆるゆると箸を取るのが視界の端に見えた。おお、よしよし。
食べる振りをしながら様子を伺っていたら、高見沢は俺と同じくだし巻きを箸で掴んで、少し見つめた後でぱくりと口に運ん、だ。
お、食べた!
内心小躍りしていたのは秘密だ。
むぐむぐと高見沢の口が動く。咀嚼する顔が小動物みたいでかわいいなーとか思っていたら、その目がぐぅっと広がった。
「………………」
そのまま、高見沢は停止してしまった。口に合わなかったかな。甘い卵焼きにすべきだったか。
と思ったら、高見沢の箸が二つ目を掴んだ。むぐむぐが再開される。何も言わなかったし、目を見開いた以外に表情も変わらなかったけど、気に入らなかった訳じゃないのはそれで分かった。
あ、いかん。
頬の筋肉がゆるゆるに。隠すように俯いて、食事に集中している振りをした。
しばらく、食器と箸のぶつかる小さな音だけがしていた。平和だ。俺昨日こいつに殺され掛けたのにな。
高見沢が鮭を口に運ぶのが見えた。
「この魚」
「ん?」
「…この前と味が違う」
ぼそり、と、高見沢がつぶやいた。この前…?
あ。
「一昨日のおにぎり?」
高見沢は答えずに黙々と食を進めた。否定しないってことは、たぶん。
「食ってくれたのか、あれ」
高見沢は無言だ。
あ、まずい、また頬の筋肉がバカになる。
「…………にやつくな」
「ごめん」
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