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短編・詩
骸様誕生日記念小説

流行の曲が流れるレンタルショップの店内に犬はいた

いつものようにヘアピンで無造作に纏められた前髪。
獣のように鋭い眼光

ただ一つ違うのは
黒曜中の制服の上から
この店のアルバイトに与えられる紺色のエプロンを着けている事

そう。犬は今このレンタルショップでアルバイトをしているのだ
中学生のアルバイトは禁止されているが
そんなもの犬には関係ないのだ

客のいない退屈な店内
犬に音楽を聴く習慣はなく
スピーカーから流れる音楽も
ただ耳障りなだけだ

じっとしていることが苦手な犬は
イライラを募らせるばかりだった

それもあと一週間の我慢だった
一週間後は犬が付き従う六道骸の誕生日なのだ

彼の誕生日にプレゼントを贈りたい
犬はその一心で今までアルバイトを続けていたのだ

彼のためだと思えば
どんなにむかついても
我慢することができた

犬に止どまらず、千種やクロームにおいても
彼、六道骸の存在が唯一にして全てなのだから

プレゼントを買うお金がなくて
アルバイトをしているわけではない
しかし、そのお金は六道骸自信から貰ったお小遣い
もとはと言えば彼のお金なのだ
そんなお金でプレゼントを買うわけにはいかない
だから犬は働く事を決めたのだ

「犬君」

ふと、後ろから呼ぶ声に振り向くと
そこにはいかにも優しそうな中年の男が立っていた

彼こそこの店の店長
犬の事情を知り
快く雇ってくれた人物だ

「お疲れ様。9時になったらあがっていいからね」

「はいれす」

にこにこといつも微笑んでいる店長
犬は初めて彼を見た時から
微笑みを絶した彼を見た事がなかった

時計を見ると今の時刻は
午後8時50分を少し過ぎている
あと10分足らずで
この退屈な地獄から抜け出せると分かり
単純な犬はさっきまでのイライラなど忘れてしまった

ふと、自動ドアが開閉音と共に
2人の人物が入ってきた

「クフフ。犬、頑張っていますか」

「…めんどいけど迎えに来てあげたよ」

そう。2人の客とは
犬のよく知る骸と千種だった

「骸さんはともかく、なんれ柿ピーまで来てんらよ」

千種の登場に思わずムッとする犬

「…僕が骸様と行動を共にするのは当然の事だよ」

犬とは対照的に
さも当然そうに告げる千種

「僕が誘ったんですよ。いけませんでしたか?」

「あ、いえ…」

骸にああ言われてしまったら犬は言い返す事が出来なかった

それでもまだ不満らしく
千種を睨み付けると
それに気付いた千種は一言

「…めんどい」

と告げた

「ムキー!なんなんれすかこのオカッパメガネは!!お前なんかこうしてやる」

激昂した犬はレジスターを千種の頬のバーコードに当てた

ピッ

そんな間抜けな音がした直後

ドカン

派手な爆発音をあげ
レジから煙が立ち上ぼった
間違なく壊れている

誰もが予想外な展開に
ポカンとしていた

「あ…えっと…骸さん何か借りるんれすか?」

その場を取り繕うように犬が聞くと
骸はいつもの笑顔で千種を指差す

「それでいいです。千種行きましょう」

「…はい」

そう言うと2人して店を後にした

未だぷすぷすと音を立てるレジと共に犬は取り残されてしまった

ゴゴゴゴゴ…

背後から聞こえた稲妻のような音に振り向くと
そこには笑顔の店長が立っていた

口許は笑顔だが明らかに目が笑っていない
迫力満点な店長に思わず犬も震え上がる

震える犬の肩に手を置くと店長は
優 し く 問い掛けた

「犬君今のはお友達?」

恐怖のあまり答えられない犬
「それじゃ、あれは何かな?」

殺気すら感じる笑顔で店長が指差したものは
紛れもなくレジだったもの

「なにかな?」

もう一度優しく問い掛ける店長

「レ、レジれす…」

やっとの事でそう告げる
店長は静かに頷くと
犬の首根っこを掴み
店の外に放り投げた

「キャイン」

「犬君明日から来なくていいからね。バイト代は修理費として貰っておくよ」

店長はまたしても笑顔で告げると
レンタルショップの中に戻った行った

「大丈夫ですか?」
半べそで振り替えると
そこには骸と千種が立っていた

「怪我はないみたいですね。」
安心したように微笑みかける骸

「骸さん…すみませんれした」

犬は骸に抱き付いて子供のように泣き出した

「…骸様。これを」

千種も罪悪感を感じたのか
そっとハンカチを取り出すと骸に渡した

「もう泣かないでください」
犬は自分の背中を撫でる優しい手の感触と
自分の不甲斐なさに涙を止めることが出来なかった

そして、来年こそは
骸に最高のプレゼントを贈ろうと
心に決めるのだった

そしてせめてそれまでは
生きると誓った

-fin-

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