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―君がくれる、幸せな時間―

任務でお互い滅多に逢えない。
それは僕らにとっては当たり前の日常。
でも、寂しくて仕方ないから。
せめて、逢える時間は目一杯一緒にいよう。
そして、離れるのが辛い時はキスをして。


―君がくれる、幸せな時間―



やっと、教団へと帰ってこれた。今まで少し長期の任務で、それがようやく終わって。僕の少し前に任務が入ったラビも、今は教団にいるとリナリーから連絡があった。

「お疲れ様でした、ウォーカー殿。」

「皆さんも。じゃあ僕は、コムイさんの所に行きますね。」

もう何ヶ月もラビと逢っていなかったから、きっと今僕の顔は弛んでいるだろう。
ファインダーの人たちと別れ、少しの時間もおしい僕は、今回の任務の報告をさっさとすませようと足早に指令室へと向かった。




「コムイさん?いますか〜?」

相変わらずこの部屋は散らかっていて、足の踏み場もない。
コムイさんの姿は見えないんだけど…これじゃあ書類全部をどけるくらいしないと人がいたとしても気付かないだろう。

「…どうしようかな。」

「ん?アレンおっかえり〜。どうしたの?ドアの前でつったって。」

なにか珍しいものでもある?と僕の後ろで背伸びしながら、コムイさんは自分の仕事部屋を眺める。
てっきりこの部屋の中にいると思っていた僕は、予想もしないことに驚いた。

「うわぁっ!こっコムイさん、いきなり後ろから声かけないで下さいっ!」

「あはは〜、ごめんね?」

コーヒーを片手にへらっと笑ってお詫びに、とキャンディーを僕に渡そうとしてたけど、それは丁重にお断りした。
コムイさんのことだ。科学班の人達が実験台になってくれないからって、任務から帰ってきたばっかりで何も知らない誰かにためそうとしたんだろう。
…現に今コムイさんの表情は、もの凄く残念そうな顔をしているし。

「…で、今回の任務なんですが」

「うん、それは後ででいいから、水路のほうに行ってきなよ。」

「え?また任務ですか?」

気を取り直して、とりあえず報告をさっさとすませてしまおうと思っていた僕は驚いた。
今帰ってきたばかりなのにまたすぐ任務、なんていつもはしない。それなら現地から直接行った方がはやい訳だし。
なのに水路に行けなんて、わけがわからない。

じゃあなんで、と悩んでいた僕に、コムイさんは少し困ったように微笑んで、今の僕にとってはとても、残酷な現実を教えてくれた。

「アレン君が、じゃなくて、ラビが、ね。少し長めの任務なんだ。だから…」

それを聞いた瞬間、僕はコムイさんの言葉を最後まで聞くことなく、水路へと走っていった。

せっかく、帰ってこれたのに。

やっと、貴方に逢えると楽しみにしていたのに。

しばらくは一緒にいられると、信じていたのに。





「ラビっ!」

「ん?あぁ。アレン、おかえり。今回は怪我してないみたいだな。」

水路につくころには、全力疾走したせいもあって息は切れて上手く言葉が話せない。ただ、一番逢いたかった、目の前の人の名前しか出てこなかった。そんな僕の呼吸が整うのを待って、ラビはいつものように優しく微笑んで僕の帰還を喜んでくれた。
でも…

「ラビ…これから任務に、行くんですね…」

こんなこと、言ってはいけないとわかっているはずなのに、それでも口が、勝手に動く。

行かないで、と。


「アレン…」

ラビが少し困ったように微笑んで、僕の頭を優しく撫でてくれた。
…わかってる。僕だってついさっきまで任務だったんだし、僕らはその為にこの教団にいるんだから。

…でも。頭では理解していても、心は納得出来なくて。久しぶりに愛しい人に会えたのに、またすぐに離れ離れになってしまう現実が凄く寂しい。


本当は、もっともっと一緒にいたいのに。

でも、これは僕の我が儘。

ラビにも、皆にも迷惑をかける事。



「…ごめんなさい、変な事言って。行ってらっしゃい、ラビ。無事で、帰ってきて下さいね。」

だから無理矢理笑って、やりすごそうとした。
…のに。

「…………アレン。」

名前を呼ばれて、え、と顔を上げると、いきなりラビは僕の唇に親指をあててきて。
訳がわからずにいる僕を余所に、ラビはその指を自分の唇にあてる。

「…え?」

まだ状況が理解出来てない僕に、ラビは微笑んで、ファインダーの人たちには聞こえないように僕の耳元で、囁く。

「…とりあえず今はこれで我慢、な。本当は直接キスしたいけど…他の奴等にあんな可愛いアレン見せたくないからさ。」

「〜〜〜〜っな……!!」

それでようやく理解する。と同時に恥ずかしくて顔が真っ赤になる僕に、ラビは軽く頬にキスをしてきて。

「じゃあ行ってくるさ、アレン。こんな任務速効で終わらしてくっから、それまでイイコで待っててな。」

「子供扱いしないで下さい!」

なんて拗ねてみたけど、さっきまでの寂しさや離れる辛さが嘘のように僕の中から消え去った。
そんな僕の事すべてがわかっているかのように、もう一度あやすように僕の頭を撫でてから、ラビは任務に向かった。






ラビのキスは、きっと魔法。
寂しさも悲しさも、辛い気持ちも消して幸せにしてくれる、僕だけの、とっておきの魔法。



だから、ねぇ、キスをして?
どんなに遠く離れても寂しくないくらい、甘い甘いキスを。





それが、僕の勇気になるから。







―End―

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