月が音を奏でる夜 002 【QUARTET NIGHT】としての単独ライブ当日。 事件は起こった。 バックバンドを依頼していた者達が、ライブ会場に来ないのだ。 何度も連絡をするものの繋がらない。 折り返しの連絡すらないのだ。 スタッフは、顔色を真っ青にしながら、右往左往。 由々しき事態である。 その旨を連絡しに来たスタッフも、彼らも重々しい雰囲気に包まれていた。 沈黙が重い。 過去の亡霊が、蘭丸の脳裏を過ぎる。 ―――――……また、だ。 また、壊される。 ここまでやって来た。 やっとの思いで、単独ライブが出来るまで、楽曲も振付けもやって来た。 それなのに、また、壊される。 掌から、何かが零れ落ちる。 拾う事すら赦されず、ただ零れ落ちるのを、見守る事しか出来ない自分に嫌気が差す。 「ちょ……!ランラン!」 その重い沈黙に耐え切れず、蘭丸は楽屋を後にした。 ☆★☆★☆ 外に出てみれば、空は自分達とは違い、気持ち良い程の晴天である。 「何なんだよ、一体……」 オレが何をした? ただ、夢に向かってガムシャラに走って来ただけじゃねぇか。 それなのに、“何か”が邪魔をする。 スタッフの休憩用の椅子だろうか。 それにどっか、と腰を下ろして俯く。 俯いた所で何かが変わる筈はないが、時の流れに逆らえるなら、こうしていたかった。 すると、ポケットの中にあるスマホがくぐもった音を出す。 「……」 無視を決め込もう、と思ったが、何度も震えるソレを取り出す。 画面には、☆♪かな♪☆との表示。 「……何だ?」 『……やっと出たよ。ずっと呼んでるのに!』 「は?呼んでる?」 『右!』 言われるがまま、顔を上げて右を見れば。 奏音が元気良く手を振っていた。 蘭丸は小さく溜息を吐くと、奏音の側まで向かう。 「……何かあった?」 「!」 「黒崎さん、顔色悪い。ボクで良かったら聞くよ?」 「……」 「ん?なぁに?聞こえないよ!ん、もう!このフェンス、邪魔ッ」 ガシャン、とフェンスに指を絡ませ、揺さぶる。 どうやら、周囲の音が、蘭丸の声をかき消してしまったようだ。 そんな中、蘭丸はある事に気付いた。 奏音の肩越しにギターケースがある事に。 「奏音」 「???」 「お前、こっちに来い」 「???」 周囲の慌ただしい音が、蘭丸の声をかき消してしまう。 それに苛立った蘭丸は、やり取りをLineに切り替えた。 『お前、こっちに来い』 「行き道!知らないよ!!」 『その道を真っ直ぐ行って、1つ目の角を左に曲がれ。迎えに行く』 「…判った!」 コクリ、と頷き、「また後でね」と言って、手を振る彼女を見て、蘭丸は小さく笑った。 [*前へ][次へ#] [戻る] |