月が音を奏でる夜
003
蘭丸が所属するユニット、QUARTET NIGHTは、まだ駆け出しと言う事もあり、仕事が沢山与えられる筈もなく。
バイトと芸能活動、二足の草鞋を履きながら、日々食い繋げていた。
「今日は―――――……」
空を見上げれば、どんよりと重い雲が夜空を覆っていた。
月など見当たらない。
今日が満月なのか、それすらも判らない。
[月なんざ気にするなんて、な]
何時も通りの日常を過ごしていた筈なのに、1つだけ変わった所があった。
それは――――――……夜空を見上げる事、だ。
月が満ちる事が待ち遠しく感じた。
「……!」
再び、風に乗って歌が聴こえる。
間違いなく、あの日に聴いた歌声だ。
「近い、な」
自然と足が進む。
もっと、聴いていたい。
もっと、歌って欲しい。
そんな感情に突き動かされながら、足早に進む。
足を進めていると、拓けた場所に出る。
きょろ、と辺りを見回せば、其処は公園だった。
街灯など見当たらない、古びた公園。
人影など、暗闇で判る筈などない。
だが、そこで、不思議な現象が起きた。
ヒュッ、と、息を飲んだ音が聞こえた。
それもその筈。
歌が中盤に差し掛かると、重くどんよりとした雲の隙間から、月が顔を覗かせ、自然のスポットライトと化して、一人の少女を照らし出していた。
ダークブルーの髪が、風に揺れる。
月を見上げて歌っているその姿は、神秘的で、まるで何かの儀式を見ているかの様だった。
「!」
すると、周囲の木々が仄かに輝き始め、ざわざわ、と揺らめき始める。
まるで、彼女の歌を歓迎しているかの様だ。
どれだけ、立ち尽くしていただろうか。
歌が終わると、彼女が振り返る。
ぱち、と視線が絡まる。
「わ、悪い……。邪魔をする気は―――……」
「ご、ごめんなさいッ!」
いきなりの謝罪に、きょとり、と、目を丸くする。
何の謝罪か首を傾げていると。
「絶対、耳障り、だったよね。もぅ、此処では歌わないから…!」
「は?」
「ご、ごめんなさい……ッ!」
する、と青年の横をすり抜けて、立ち去ろうとする彼女。
そんな彼女の腕を掴んだ。
「え…?」
振り返る彼女の表情は、驚きと戸惑い。
絡み合う視線。
幼さを残した顔立ち、そして、宵闇の色と黒色の瞳が蘭丸を写していた。
「早合点すんなよ」
「?」
「リクエスト、しても良いか?」
突如出た言葉に、彼女は目を丸くしていた。
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