月が音を奏でる夜 001 出逢いは突然訪れる。 そして、唐突なる別れも。 『他に誰か捜せよ』 『オレ達、抜けるから』 不様なバンド解散。 言い知れぬ屈辱と怒り。 信用していたのに、信頼していたのに。 人は、簡単に裏切る。 上京して来てから、ずっと一緒にやって来た。 辛い事も、苦しい事も一緒に乗り越えて来た。 それなのに、ああ簡単に裏切るのか? オレはそれだけの存在だったのか? 判らない、判りたくない、判ろうとも思わない。 言い知れぬ憤りが思考を支配する。 「チッ……」 そんな憤りを逃す為か、小さく舌打ちをする。 今が、夜で良かった。 こんな情けない姿を誰にも見られる事がないから。 この暗闇が、オレの存在を隠してくれるから。 「……歌声…?」 そんな中、風に乗って聴こえる、甘く、切ない声。 [誰だ…?] こんな夜遅く、誰が歌っているのだろうか。 今まで、この道を通っていたが、こんな歌声は聴いた事はなかった。 自然と足がその歌声に向かう。 [何処だ…?] こんな時、夜が邪魔をする。 まるで、夜の暗闇が彼女を守ろうとしているかの様な錯覚に陥る。 [オレも、勝手なもんだな] つい先程までは、自分の存在を隠してくれる、この暗闇が有難かったと言うのに、この歌を歌っている人物を隠す暗闇が許せない、だなんて。 そんな矛盾に、クスリ、と、笑う。 歌を探して、どれだけ歩いただろうか。 気付かない間に、歌声は消えていた。 [……終わっちまった、か……] まだ、聞いていたかった。 自身を優しく包み込んでくれる様に感じた歌声。 「は…っ」 乾いた笑いが、口から溢れる。 何処の誰が歌ったのか判らない歌を聞きたい、と、もっと聞きたい、と思った自身が笑える。 けれど、聞いていたかった。 「探せば、逢える……か?」 偶然、聞こえただけかも知れない歌声。 でも、この歌声の主に逢える。 そんな予感がしていた。 [次へ#] [戻る] |