[携帯モード] [URL送信]

月が音を奏でる夜
010
ゆらゆら、と脚が揺れる。
さらり、と長い髪が靡く。
シャイニング早乙女により驚かされ、その時に腰を抜かしてしまい、立ち上がれなくなった奏音は、蘭丸に背負われ帰路に着いていた。

「……ごめんなさい……」
「気にすんな」
「もう歩けるから……っ、降ろして…っ」
「ダメだ。大人しく背負われてろ」
「…あぅ」

しゅん、とした声音に、多少の罪悪感がわくものの、2人きりである、折角のチャンスを無駄にしたくないのだ。
最初は、龍也が送って行く、となったのだが、奏音がそこまでして貰うのは申し訳ないから、タクシーさえ呼んでくれれば帰れる、と、辞退。
そうなると、だ。
タクシーに乗せるのは容易いが、自宅に着いた時、まだ立てない状態だったら、奏音はタクシードライバーに抱きかかえられる事になる。

―――――――……冗談じゃねぇ。

目の前が真っ赤に染まる。
奏音が誰かに触れられる、と思った瞬間、ドス黒い感情が思考を支配するのが判った。

―――――――……触らせたくねぇ。

奏音は、オレだけの歌姫。
あの日から、満月の夜になると連絡が来る様になった。
オレだけに聴かせてくれる歌声。
帰る時も、触れ合う指先がもどかしくて、手を繋いで帰った事だってある。
世間的に言うなら、満月の夜デートを繰り返し、親交を深めて来た。
それなのに、ぱっ、と出て来たタクシードライバーが、奏音を抱きかかえる?
んな事、許される筈はない。
気が付けば、座っている奏音を背負うと、そのまま歩き出す自分がいた。

「ランマル!?」
「ランラン!」
「オレが送ってく」
「ふぇ?!」

素っ頓狂な声を上げて、瞳を見開く奏音と、驚きを隠せない面々に、蘭丸は小さく溜息。
 
「おい!黒崎!」
「ごちゃごちゃ煩え」
「ちょ……っ、黒崎さん…っ!コンサートで疲れてるでしょ!それに、打ち上げだってあるでしょ!」

ジタバタ、と手を動かして抵抗を見せる奏音。

「コラ!暴れんな!落とすぞ!」
「!?」

間違いなく、落とされるだろう。
そして、落とされたとしても「お前が悪い」と言われるに違いない。
痛い思いをするぐらいなら、大人しくしていれば良い。
そう思った奏音は、動きを止めた。
そして、周囲が止めるのを無視した蘭丸は、奏音を背負ったまま、歩き始め、今に至る。

「駅までで良いからね?」
「……送ってくったろ?家まで、だ」
「え、あの……っ」

肩越しに奏音の顔を覗き込めば、頬を赤く染めて、視線を合わせないようにしている。
どうやら、恥ずかしいようだ。

[……かわいい]

くるくる、と、表情を変える奏音。
表情が豊かで、見ていて飽きない。
もっと違った表情が見たい――――――……。
そんな事を思う夜であった。

[*前へ]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!