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月が音を奏でる夜
009
盛大な拍手、ファンの黄色い悲鳴を聞き流しながら、QUARTET NIGHTの単独ライブが終わりを告げた。
最初は、どうなる事かと思って居たが、災い転じて福となす、の言葉通り、単独ライブは大成功を収めた。
特に、カバーソングの所は、大いに盛り上がった。
最新曲から懐メロまで、幅広いジャンルを盛り込み、ファンまで巻き込んだゲーム。
まさか、罰ゲームまで用意されている、とは思っても見なかったが。
こんなコンサートも良いかも知れない。
ちらり、と彼女達を見れば、満足気に微笑みながら、宛行われた部屋に向かう。

「お前ら、打ち上げどうすんだ?」
「んー…てか、参加して良いんですか?」

小首を傾げて、頭に“?”マークを浮かべて見つめて来る彼女達。

「当たり前でしょ。リトラビが居たから、開演出来たんだしね」
「わーい。参加しますぅ」

きゃぴきゃぴ、とはしゃぐ彼女達に、苦笑いを浮かべるが、何処か言い辛そうにしている奏音に目が止まった。
だが、声を掛ける気にはなれなかった。



☆★☆★☆




奏音は何時も一番最後にシャワーを浴びる。

『じゃあ、スーちゃんまたねぇ』

彼女達は我先に、と言わんばかりにさっさと打ち上げ会場に向かったようだ。
シン…とした部屋。
ガシガシ、と乱暴に濡れた髪を拭いながら、小さく溜息を吐く。

「……」

凄く楽しかった。
バックバンドも借りを返す為に引き受けた。
ただ、それだけだった。
リトラビはストリートミュージシャン。
知らない人が多いハズ。
なのに、意外と知られていた事に驚きを隠せない。
ましてや、受け入れられるとは思ってなかった。

「契約……しても、良いかも」

ポツリ、と溢した独り言。

「言質取ったデース」
「ふぎゃあぁあああ!」

背後には誰も居なかった筈なのに、いきなり耳元で呟かれたのだから、驚きで叫び声を上げた。
その声は、打ち上げ会場にまで聞こえていて。
ダダダダダ……と走り込む音が聞こえたかと思いきや、

「奏音!!」
「スイレン!!」

バン!!

ドアが乱暴に開かれる。
すると、其処には、壁に背を向け、涙目でしゃがみ込んでいる奏音と、ハハハ、と笑う男性の姿があった。
その手には、ひらひら、と、1枚の紙が揺れている。

「社長!!アンタ、何やってんだ!!」
「契約書デース。書きまショーね」
「んな事は後からで良いだろうが!!」

ズルズル、と引き摺り出されながら、奏音を見つめる。
すると、ガタガタ、と身体を震わせながら、

「あ、あ、明日、て、て……提出……します」

と、震えた声で答える奏音に対し、にこり、と微笑む。

「良い子デース」

契約書を蘭丸に渡すと、龍也に連れられて、部屋を後にする。
きっと、説教だろうな、等と思いながらも、奏音の側で、膝を折る。

「大丈夫か…?」
「……吃驚した……」
「確かにな。立てるか?」

奏音の無事を確認した後、立ち上がるが、奏音がなかなか立ち上がらない。
蘭丸は、手を差し伸べ、引き上げようとするものの、ぺたり、と座ったままだ。

「……こ」
「こ?」
「腰……腰が抜けた……」
「……」

奏音の言葉に、沈黙が降りた。


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