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月が音を奏でる夜
005
奏音は、スマホを手に取ると、何処かしらに連絡を取り始める。
それを見つめながら、ふ、と思った事を口にする。

「お前ら、一体何者なんだ?」
「……は?」

きょとん、とした眼差しで蘭丸を見つめる2人。

「スーちゃん、何も言ってないの?」
「あはっ。まぁ、あのスーちゃんだから、言わないって。聞かれない事は答えない主義だし」
「?」
「私達は、リトルラビットって言うバンド組んでるのよ」
「リトルラビット…?」

何処かで聞いた事がある名前に小首を傾げる。

「はー…日向先輩が取り敢えずこっちに来るって」

先に連絡を取り終えた嶺二が、椅子に腰を下ろす。

「ねぇ、花楓――――…多分だけどさ、今回の洗礼、コンサート企画を依頼した会社ぐるみの犯行かもね」
「あー、間違いないわ。だから、スーちゃんが動いてるのね」
「「は?!」」

いきなりの爆弾発言に、蘭丸と嶺二は素っ頓狂な声をあげた。

「まぁ、証拠がないから何とも言えないけど、十中八九間違いないわね」
「確認してみたら?きっと、その企画会社の人間、居ないわよ」
「……?!」

言われてみて気付く。
バックバンドの無断欠席、曲目の不備。
ここまであからさまな行為に対し、もう何もされていない、と言う保証はない。
嶺二は、再び、スマホを取り出し、誰かと連絡を取り合う。
暫くそのやり取りを見ていたが、はぁあ、と重い溜息吐く嶺二を見て、その態度に、どんな返事が来たか安易に想像出来た。

「的中、だね」
「あ、スーちゃーん」

丁度、奏音も連絡を取り終えたのか、こちらに向かって歩いて来る。

「企画会社ぐるみ、みたいよ」
「だろうね。けど、大丈夫だよ」
「大丈夫って……!」

不安になったのか、嶺二の語尾が荒れる。
大丈夫と言う、そんな気休めなど欲しくない。

「ボク達のライブスタッフ貸すから」
「え?」
「今日は、ボク達のライブリハで、スタッフが全員揃ってんだよね」
「あ……!そっかぁ。ライブさながらで演る予定だったから居ますねぇ」
「良いのかよ!」
「緊急事態なんだから、使える物は何でも使わないとね。こっちには、20分ほど掛かるから、それまでに、搬入されてる楽器の状態を確認しろってさ」

パンッ、と手を叩けば、彼女達は椅子から立ち上がる。

「花楓と椿姫は、搬入楽器の確認。少しでも可笑しかったら連絡して。ボクとあざみと咲良は黒崎さん達と楽曲チェック」
「はーい」

まるで、何事もなかったかの様に、彼女達は振る舞う。
悲観に浸るよりも、自分達に出来る事をしている様だ。

「急な変更で大丈夫か?」
「大丈夫。その為に連絡したし、OKも取ったから」
「…ホント、助かるよ。今からコンスタ探し、なんて不可能だし…」

ほぅ、と安堵の息を吐く。
けれど、どこかしら納得がいかない。
都合良く事が運びすぎる。
オレ達に見返りを求めるのではないだろうか。
ただで動く人間なんて居やしない。

「変な勘繰りは止めようね」
「!」
「――――…コレは、この間助けてくれたのと、送ってくれたお礼。コレで貸し借りは無し、だからね」

初めて出逢った時の事を言っているのだろうか。
そもそもアレは、オレさえリクエストしなければ良かっただけの話なのに、奏音はそう思ってはなかったようで。
クス、と、猫の様に瞳を細めて笑う奏音に、ふ、と笑みを溢した。
今、下手に口を出せば、リトラビの機嫌を損なうかも知れない。
損なえば、コンサートは即中止。
チケット返金やキャンセル料で、多額の金銭を失い、信用も無くなる可能性がある。
それに、ギャラに関しては、事務所側の問題なのだから、蘭丸達が口を挟む事柄ではない。
ココは奏音の好意に甘えるしか、手立てはないのだから。


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あきゅろす。
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