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短編小説
君の声が聴きたくて 前編(黒崎蘭丸)
のんびり!バスで寄り道旅のロケ。
自分達でアポを取りながら、目的地へ向かう一泊二日のバス旅。
途中で寄り道等をしながら、進む。

[男3人の旅行なんざ、むさ苦しいだけだろうが]

内心毒づきながら進む。
ゆったりとした時間。
普段の喧騒が嘘の様に、静かに流れ行く。
もしもこの場所に、奏音が居たら、きっと、瞳をキラキラと輝かせながら、嬉しそうに笑うだろう。

[あー……コイツらじゃなくて、奏音が居たら良かったのに]

どうして、奏音が居ないのだろう。
別にアイドル同士なのだから、旅行ロケをしても良い筈だ。
そうすれば、撮影スタッフのスキを見つけて、キスの1つや2つブチかまして、撮影が終わった後、宛行われた部屋に連れ込んで、腕の中に閉じ込めて、にゃーにゃー、と思い切り啼かしてやれるのに。
ああ、仕事は無情だ。

「……黒崎さん?」
「あ?」

呼び掛けられて、ふ、と我に返る。
ロケの最中に考え事をしていた自身に、自嘲する。
別に、奏音不足、と言う訳でもないし、ツアーの最中で離れ離れになる事だってある。
それなのに、ただ、奏音が喜びそうな景色を見ると、つい考えてしまう。

[ガラじゃねぇな]

そう思うものの、これが恋心なのだろう、と言う言葉で自身を納得させていた。



☆★☆★☆




ロケの収録が終わりを告げ、寝ようと部屋の明かりを消した頃、くぐもった音が聞こえる。

「…何だ…?」

ごそ、と、手を伸ばし、スマホを見れば、『☆♪かな♪☆』の文字が踊る。
蘭丸は、2人を起こさないように部屋を出ると、近くにあった椅子に腰を下ろした。

「どうした?」
『あ…ごめん。もしかして…撮影中だった?』
「いや、撮影は終わってるから、安心しろ」

その言葉に、ほっ、と安堵の息が漏れた。
聞きたい、と思っていた声に、微かな笑みが浮かぶ。

「…何かあったのか?」
『え?あ……用と言う用でも無くて……あの、えと』
「?」

困った様な声音に、蘭丸の眉が寄る。
また、誰かに言い寄られているのか、と不安が過ぎる。

「何だよ、言えよ」
『……笑わない?』
「内容による」
『……怒んない?』
「言わねぇと判らねぇだろ?」

奏音は決まって、“笑わない?”、“怒らない?”と聞いてくる。
きっと、今、奏音は、恥じらいにもじもじ、と身体を揺らして、上目遣いか目を泳がせているだろう。

[今すぐ帰りてぇ!てか、帰らせろ!]

許されるなら、今すぐにでも帰りたい。
帰って、奏音を連れ出し、一晩中、にゃーにゃー、と思いっきり啼かせたい。
何度も思った事が再び、思考を支配する。

「奏音?」
『あ、あのね……今日…』
「ん?」
『友達と久しぶりに会ってね……』

どうやら、今日はオフらしい。
そう言えば、中学時代の友人とご飯食べに行く、とか何とか言っていたのを思い出していた。

「楽しかったか?」
『うん。それはそれで楽しかったんだけど……ね。その……』
「どうした?言えよ」
『あの、ね?彼氏の話になって……ね?』
「……」
『……その事を思い出してたら……ね、その、蘭丸くんに会いたくなったって言うか……あの……声が、ね……聞きたくなったって言うか…』
「!」

こんな事を言う奏音は珍しい。
言って欲しいと願う言葉すら、なかなか言わないし、抱いている時に焦らさないと言わない。

[恥じらう奏音が見てぇ!てか、マジで今すぐ帰らせろ!]

きっと、恥ずかしそうに頬を赤らめながら、もじもじ、としている奏音が簡単に想像出来る。

『……あの……その……』
「……居る時に言えよ」
『蘭丸くんが居る時は、声も直ぐに聞けるし、姿も見れるもん』

少し拗ねた様な声に、笑いが込み上げる。


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