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短編小説
カノジョのキモチ 後編(黒崎蘭丸)
「話さなきゃ、ダメかい?」
「そりゃあ勿論。恋バナなんですから」
「インタビューされてるみたいですね」

出された紅茶を一口飲みながら、奏音は小さく溜息を吐いた。

「さっき、好みの音って言ってましたけど、彼氏さんは、好みの音なんですか?」
「そりゃあね」
「彼氏さんって、どんな人なんですか?」
「2人共逢った事あるよ」
「「ええっ!!」」
「そ、そんなに驚かないでよ」

2人の驚き様に苦笑いを隠せない奏音は、サンドイッチを頬張りながら冷ややかな眼差しを向けた。

「彼氏さん、同じ業界人なんですか?」
「そうだよ」
「じゃあ、彼氏さんの何処が好きなんですか?」
「全部」
「即答ですか。でも、一番好きって所、あるでしょ」

質問攻めも覚悟はしていたが、ここまでとは……。
考えが甘かった奏音は、頬杖をついて、二人を見る。
どうやら、腹を括った様だが、忘れてはいけない。
自分達の後ろの席には聞かれたくない人物がいる事を。
その事に全く気付いていない奏音は、重い口を開いた。

「……声」
「こえ?」
「人の第一印象って、表情、雰囲気、見た目……そして、声なんだよね」
「え?」
「よく笑う人、柔らかい雰囲気の人、清潔感、正義感溢れる人、透き通る様な声……ってね。ボクの場合、声に惹かれたんだよ」
「へぇ」
「力強くて、まだまだ荒削りな所もあるけど、優しくもある輝きを持つ音がある声なんだよね」
「性格とかそんなんじゃなくて?」
「性格なんて後から知れば良いと思うよ」

奏音による、恋愛講座が開催されている。
奏音が言うには、本当の性格なんて後から判る物だから、逢った当時の性格なんざ意味が無い、と言うのだ。
自分勝手に作ったイメージを相手に押し付け、こんな人とは思っても無かった、なんて相手を見ていない証拠だから、信じるのは直感。

「へぇ」

感心した様にレンが呟く。
蘭丸にしてみれば、内心複雑であった。
奏音が困っているのは判っていた。
だが、なかなか言ってはくれない言葉を此処で聞けるのではないか、と言う甘い欲望と戦っていた。

「じゃあ、彼氏さんの声は」
「ドストライクなんだよね。彼の声」

カラン、と、氷が音を立てて崩れる。

「じゃあ、歌って貰った事って……」
「あるよ、そりゃあね。でも、正直に言えば、売り出したくなかったね」
「なるほど。で、表情では?」
「まだ続くのか!」
「勿論♪」
「だーっ。恥ずかしいんだよ。彼も知らないのに」
「言ってないんですか?」
「言えないんだよ。声が好き、なんて知られてもみろ。絶対に耳元でやるに決まってるんだから!」

かぁあっ、と頬を真っ赤に染め上げた奏音が二人を睨む。

「で。表情」
「うぅ……。判ったよっ。――――……起きたての時に見せる顔。本人無意識だろうけど、優しく笑うの。その顔が一番好き」
「なるほど」
「も、もう無いよね?恥ずかし過ぎて死ぬ」

机に突っ伏して、降伏の白旗を挙げる奏音。

「フフッ。今回は上々……あら?」
「あ!」
「ん?」

3人の視線が後ろに注がれる。

「やあ、レディ達」

苦笑いを隠せないレンとは裏腹に、奏音はピキッ、と固まる。

「Swimy?」

ガタッ、と立ち上がると、後ろの席に向かう。

「い、い、何時から……ってか!!何処から聞いて……っ」
「ゴメンね。最初から最後まで聞いてた」

レンの言葉に、奏音はかぁああ、と、頬を染め上げ、その場に蹲る。

「よりにもよって、一番聞かれたくない相手に……ッ」
「……」
「ランちゃん?」

ガタリ、と立ち上がると奏音に近付き、耳元に何かを囁く。

「――――ッ!!コレをやるから、言わなかったんだよ!!」

顔を真っ赤に染め上げ、耳を押さえて睨み付ける奏音。
迫力なんてあったものでは無い。

「もう遅ぇな」

にやり、とあくどい笑みを浮かべる蘭丸に対し、レンは一言。

「ランちゃんの――――……カノジョ?」
「……そうだ。コレ、オレの女」
「コレって言うな!」

奏音が、オレの事を本気で好きかどうか、なんて恥ずかしすぎて聞けなかった。
けれど、奏音がちゃんと、オレの事を好きでいてくれているのは、言葉の音で判った。
けれど、オレ以外の奴に言ったのは気に要らないから、細やかな悪戯を仕掛けた。
耳元で、こう囁いた。

―――――――……オレも全部好きだぜ、奏音、と。



―――――――――――――――――――――
あとがき

セリフだらけ

2021.04.07

【おまけ】

喫茶店から出た5人。

「黒崎さんだったんだ」
「てっきり、黒崎さんはリトラビのスイレンと付き合ってると……」
「何言ってんだ?Swimyは作曲家の時の名前で、スイレンはバンドの時の名前だぜ?」
「「「え?」」」
「Swimyとスイレンは同一人物。オレらは先に行くぜ」

奏音と手を繋ぎ、それをポケットに突っ込みながら街中を散歩し始める。
機嫌が悪いウサギの機嫌を治すには、暫く散策するのが一番で。

「お前が着て欲しそうにしてた衣装を着て、また、耳元で囁いてやるよ」
「ホント、止めて。ボク、悶え死ぬ」
「嫌だ」

などと言い合いながら、ゆったりとした速度で歩く。
誰にも邪魔されない時間。
たまには、こんな時間も必要。

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