[携帯モード] [URL送信]

Wonderful days
雪斗の頼み A
「青学にとっても悪い話じゃねぇよ」
「どう云う意味だい?」

スミレは、軽く眉間に皺を寄せる。

「ミックスダブルスのレベル、上げたいんだろ?」
「確かに上げたいですが――…」
「今のままじゃ、予選敗退は濃厚だぜ?」
「え?」
「ダブルスは一朝一夕で上手くなる程、甘いもんじゃねぇ。だが、経験者がいる」
「経験者?」

きょとん、と、した表情を向ける二人に、再び、雪斗は声高らかに笑った。

「はー、笑った」
「もったいぶるんじゃないよ」
「ハイハイ。これを見てみてよ。今から、四年前のだ」

雪斗は、スマホを取り出すと、とあるムービーを見せる。
そこに映っているのは、奏汰と――…、

「「手塚!!?」」

それに、驚いた。
シングルスプレイヤーとばかり思っていた。
しかし、そこには、仲睦まじい二人の姿。

『奏汰、国光。決勝だぞ』
『うん。4連覇は目の前だよ』
『油断するな』
『判ってるもん。ハチミツ君と組む、最後の試合だから、頑張る』
『そっかそっか。行って来い。二人で勝ち取って来い』
『『はい(うん)』』

プツ、と映像は止まる。

「4連覇…?」
「奏汰と国光は、全国小学生ミックスダブルスの部、4連覇を果たした強者」
「……」
「そのペアが此処に居る」

その言葉が、重く圧し掛かる。
もし、彼女が特別コーチとして、青学に来てくれるなら、ありがたい話はない。
特に、青学のシングルスプレイヤーは個性が強い。
その個性が、未知なる才能を消している部分があるからだ。

「国光の手伝い、それ即ち、ミックスダブルスのコーチだとすれば、どうだよ?」
「……」
「奏汰は、気軽に出来る体幹の鍛え方も知ってる。マッサージや、応急処置も出来るからな」
「しかし、部長である手塚を交えずする話じゃないと思いますが」

秀一郎が云う言葉も尤もである。
部長である国光を差し置いて、どうして自分達に話をするのか、理解出来なかった。

「国光は云わなくても、奏汰を連れて行くのに賛成だからな。例え、反対されても強引に連れて行くさ」

ガタリ、と、立ち上がると、窓から見える景色を見る。
すると、奏汰が国光から離れ、ぬいぐるみと戯れている。

「充電完了したな」

ポツ、と、呟くと、ガラ、と窓を開けると、

「国光!」

ちょいちょい、と手招きする。
それに気付くと、奏汰や周助に声を掛けながら、部室に足を向けた。

コンコンコン

ノックする音と共に、「失礼します」と聞こえる声に、他校生である奏汰を、合宿に連れて行く事に反対して欲しい秀一郎は、心中穏やかではない。

「雪斗さん」
「単刀直入に聞くぜ。奏汰を青学の合宿に連れて行くのは反対か?」
「奏汰を、ですか?」

いきなりの言葉に、国光は眉を寄せる。

「奏汰をGW中、お前の側に置いておきたい」

その言葉に、国光は思案の表情を浮かべた。
奏汰をテニスに関わらせる事で、もしかしたら、復帰してくれるかも知れないと云う欲望と、部長としての自分自身との間で揺れていた。
それを見越したかの様に、雪斗は国光に近付き、ボソリ、と何かを耳打ち。
すると、国光の表情が変わった。

「その話、本当ですか?」
「あぁ。だから、この世で一番安全なお前の側に置いておきたい」
「判りました。奏汰は俺の手伝い、と云う事で連れて行きます」
「手塚!」

秀一郎は、国光に異論を唱えようとするが、それを一睨みで黙らせる。

「大石。悪いが、俺の意志を押し通させて貰う」

それだけを告げると、パタム、と、扉を閉めた。

「部長である国光の許可は下りたぜ?スミレちゃん」
「竜崎先生」
「仕方ないねぇ。雪斗の妹も参加させよう」

その言葉に秀一郎は、がっくし、とうなだれたのだった。

[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!