Wonderful days 雪斗の頼み @ 「そんな事より、スミレちゃんにお願いがあって来たんだよ」 奏汰の話を終わらせるべく、雪斗はスミレを見る。 その表情は、先程のおちゃらけた表情とは違い、何処か真剣だった。 「あたしにかい?」 「そうだよ。後、副部長君にも、ね」 「え?」 いきなり指名され、秀一郎は、ビク、と身体を強ばらせる。 雪斗は、その様子を見て、大きな声を立てて笑った。 「取って食いはしねェよ」 「雪斗さん」 「国光には、後で説明する」 「………」 怪訝そうな視線を向ける国光に、雪斗は涼しげな表情で、「部室借りるぞ」と云って、部室に向かう。 「な、何を云われるんだ…」 「大丈夫だよ」 秀一郎の不安げな言葉に、奏汰は口を開く。 「え?」 「二番目の兄上が苦情を云う時、二人きりで直に云うの。第三者を挟まないから、苦情じゃないよ。だから、安心して」 ニコ、と笑う奏汰に、 「その面は安心して良い」 国光も擁護する。 「大石、行くよ」 「あ、はい」 不安を払拭出来ぬまま、秀一郎はスミレと共に、テニス部部室に向かった。 「………」 国光は、複雑な思いを抱えながら、彼らを見送った。 ◇◆◇◆◇ 「ひゃ〜…変わってねェな」 懐かしむ様に、ぐるり、と、部室を見る。 そんな雪斗を見つめながら、 「頼みって何だい?」 スミレは、開口一番そう告げる。 雪斗は、部室内にある椅子に腰を下ろすと、 「GW中さ、合宿すんだろ?それに、ウチの奏汰を参加させて欲しいんだよ」 その言葉に、 「は?」 「え?」 と、上擦った声を上げる二人に、雪斗は大きな声で笑った。 「はー、笑った笑った。間抜けな声出すんだもんよ」 「い、嫌…」 「妹さんは青学じゃないですよね」 「氷帝だ」 「なら――……」 「頼めねェんだよ」 「え?」 「氷帝だと奏汰に歯止めとなる物がねェから、脱走しちまうんだよ」 「脱走って……」 苦笑いを浮かべながら、雪斗を見るが、真剣な表情を崩さない。 「国光の手伝い、と云う歯止めがあれば奏汰の脱走は防げる」 その言葉に、先程の国光に抱き付いている奏汰の姿が思い出される。 あの懐きようなら、雪斗が云う脱走はしないだろう。 しかし、それは氷帝であっても変わらないのではないか、そんな疑問が脳裏を過ぎった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |