足踏み
1ー8
待つ事30分。あれから連絡はない。段々不安になる。すぐに揺らぐ心に自嘲しながら目を閉じる。あと30分待とう。それで現れなかったらーーー
「ことりちゃん」
目を開ける。目の前には少し息をきらした様子のゆうさんが立っていた。
「待たせてごめん」
そう笑いかけられて涙腺が緩む。声を出そうとしたら喉が震えて、代わりに頭をふって答える。
「どうてここが?」
場所は教えてないのに。
「電話越しに聞こえた音が昨日ここでスピーカーから流れてた音だったから」
そう言ってゆうさんがツリーの近くにあるスピーカーを指差す。本当だ。それだけの情報で私の所へ来てくれた。息をきらしてまで。走ったんだろうな。私のために?また涙腺が緩むのを感じた。
「・・・何があったの?」
ゆうさんが私の様子に慌てた様にしゃがんで、視線を合わせたまま問う。困ったような、慌てた様な優しい笑顔。なのに私はなかなか言い出せない。
「大丈夫だよ。言いたくなかったら言わないで。そばにいるから、落ち着いたら帰ろう?」
そんな私を見て、ゆうさんは私の隣りに座り、今度は屈託のない笑顔を向けてくれた。
「・・・私、学校が毎日少し窮屈で。友達とも合わなくて」
私はぽつりぽつりと頭の中で言葉を探しながら話し始める。
「私の話しに興味持ってもらえなかったり、本気か冗談か分からないけど馬鹿にされたり。毎日だと何か疲れちゃって・・・」
あまり重い空気にならないよう、へへっと笑って誤魔化しながらゆうさんの方を見ると、ゆうさんは真摯な視線でこちらを見つめてくれていた。その視線が心にずしっと重い衝撃を与えたような気がした。真剣に聞いてくれている。私も真剣に話そう。全部。
「・・・毎日そうなると、どうせ私の話なんか聞いてもらえないって諦めたり、馬鹿にされてもヘラヘラ笑うようになって。そんな自分も嫌いで。それで今日、一方的に感情を爆発させて、皆に押し付けて。自分もこうなる前に言い返してれば良かったのに。そんなだからこんな風に扱われて当然だったのかも・・・」
話してみたら自己嫌悪だ。でも、スッキリしているのは本当だ。遅かれ早かれ、あの2人とは私は合わないって気付いたはずだから。ある意味悔いはない。
「ことりちゃんはもっと大切にされていい子だと思うよ。」
今度はゆうさんがぽつりと言葉を紡ぐ。
「俺は毎日ことりちゃんとお話し出来て嬉しいし、毎日話したい子だと思ってるからお話ししてる。それに昨日こうやって会えて本当に良かったと思ってる。学校の様子までは分からないけど、ことりちゃんはもっと大切にされていいんだよ」
ゆうさんが微笑みながら優しく頭を撫でてくれた。どことなくその仕草はぎこちなかった。でも暖かくなる動きだった。
「・・・ゆうさん」
「・・・何?」
「私、今日ゆうさんが会いに来てくれて本当に嬉しいです。今の言葉も。少し自分に自信が出ました。それと・・・」
おずおずとゆうさんの目を見つめる。ゆうさんの様に真摯な態度で伝えたいから。
「もし良ければ、もっとゆうさんの事が知りたいです。お話しもしたい。だから私と友達になってもらえませんか?改めて」
そう言ったらゆうさんは一瞬驚いた顔をして、その後眩しいくらいの笑顔で頷いてくれ、私もつられて笑顔になった。
その後、何気ない話しをして日が暮れたのでゆうさんと別れた。今は帰りの電車の中。色々あった1日。今日から新しい気持ちで人と接していけば良いんだ。明日はどうなるだろう?問題はいくつかあったけど、とにかく今は幸せに身を預けながら電車に揺られる事にした。
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