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足踏み
1ー7

「え〜、2人とも良い雰囲気じゃぁん」
「お、熱いねぇ」

さっきの出来事から復活したらしいマキちゃんが私に伸しかかりながら、ナチちゃんが青山さんの隣りに座りながら私達をはやしたてる。

「青山ってことりが良かったのぉ?」
「なんか初々しい感じか可愛いよねぇ」
「ラブラブ〜、お幸せにぃ」

マキちゃんと青山さんが笑い合っている。ナチちゃんが私に「こんなチャンス2度とないぞぉ。もらわれとけぇ」と言って、その言葉に今度は3人で笑い始める。

・・・。

「・・・いい加減にしてよ」
「え?」
「いい加減にしてよ」

頭の中がぐしゃぐしゃで、上手くものが考えられない。でももう限界だ。

「なんで私が好きになる人をあなたに決められたり、否定されなきゃいけないの?ネットで出会った事の何が悪いの?それに勝手にそっちだけで盛り上がらないでよ。もらわれとけ?そうやっていちいち馬鹿にしないで!!」
「ちょ、ことり!?」
「いっつもそう。自分の事ばっかり主張して。人の事馬鹿にする事しか出来ないで。こっちばっかり気を使って・・・。人の気持ちをもっとよく考えてよ!!」
「え、ことり待って!!」

最後大声を出して、考えるよりも先に荷物を持って部屋を飛び出してしまった。部屋の中の人達の視線を感じ、なおさら止まる事も出来ずカラオケ店の出口へ急ぐ。今はただ1秒でも速くここから逃げる事しか頭になかった。



あれから1時間近く経った。冷静になって考えるとなんて事をしたんだろう、と自分自身にビックリだ。無気力感のままとぼとぼ歩く。もうあのカラオケ店からだいぶ離れた。私はゆっくりと目の前のツリーを見上げた。何をするわけでもないので、近くにあったベンチに座る。マキちゃん達からは何の連絡もない。咎められることはなかったが、それと同時に心配されてもいないということなんだろうか?でも私は不思議とそこまで悲しいとは感じなかった。もうマキちゃんやナチちゃんと一緒にいようとは思わないからか、非常にスッキリしていた。ただあるのは虚無感。悲しくはないはずなのに、その虚無感を埋めるように頭の中にモヤモヤができ始める。今まで話しをふっても遮られたり、見下すような態度で馬鹿にされてた。話しを聞いてもらえなかったのは、私に興味がなかったから?馬鹿にしてたのは、冗談じゃなくって本気で思ってたから?そんなの2人の態度を見れば分かった事じゃないか。マイナスに傾き出した心を止める事が出来ない。それにゆうさんとの事も否定されてしまった。ネットで出会ったとしても、危険だとしても、まだ知らない事ばかりでもゆうさんは私の話しを聞いて、頷いて笑ってくれた。気が付けば私は携帯電話を取り出し、ゆうさんへと電話をかけていた。

『・・・もしもし、ことりちゃん?』
「ゆうさん・・・」

1日ぶりのゆうさんの声。落ち着きのある、やわらかい声。

『どうしたの?学校帰り?』
「はい。・・・ゆうさん」

お互いに沈黙になる。たった1年で誰かを頼ったり、わがままを言うのが少し怖くなった。だから今までゆうさんにも相談するのが怖かった。私はやっとの思いで一言を振り絞る。

「会いたいです」

言った。言ってしまった。ごめん、無理って言われてしまえば、それまでだ。今の私は立ち直れないかもしれない。言ってから後悔とか、少し自分が笑える。

『今行く。待ってて。そこ、昨日のとこだよね』
「・・・え」

途端電話はきれ、1人の沈黙になる。今行くって・・・場所も告げてないのに来てくれるのだろうか?でも受け入れてくれた。頼っても良いんだ。気持ちが少し軽くなり、暖かくなる。私はゆうさんを信じて待つ事にした。


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あきゅろす。
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