足踏み
1ー4
「付き合って頂いてありがとうございました」
「いえいえ。気にいる物があって良かった」
数十分の探索の結果、気にいるデザインの髪留めを手に入れることが出来た。正確にはゆうさんが見つけてきてくれた物だから、自力ではないのだけれど。
「どこかで休憩しよっか。疲れてない?」
「あ、はい。大丈夫です。けど、休憩しましょうか」
少し歩いた所にあった喫茶店に入って休憩することになった。落ち着いた雰囲気のお店で、気分も落ち着いた。さっきよりは自然と話しが出来るようになったと思う。まだ少し緊張するけど。今ゆうさんは爽やかな笑顔を女性店員さんに向けながら、注文している。店員さんはやんわり頬を染めながら注文を受けている。やっぱりゆうさんの笑顔は素敵なんだろうな、なんて思いながらその光景を見つめていた。
「じゃあ、お願いします」
ゆうさんがそう言って改めて微笑むと、店員さんも笑顔で応えて去って行った。
「・・・ゆうさんってすごいですね」
「え、何が?」
しまった。感心が言葉で漏れてしまった。ゆうさんも驚いている。
「あ、いや、常にニコニコしていてすごいなぁって。あんな笑顔向けられたら誰も嫌な気はしないですよ。むしろ嬉しくなります」
言いながら恥ずかしくなる。突然何を言っているのだろう。
「・・・俺の笑顔が?」
「それだけじゃなくって、チャットの時もかけてくれる言葉が優しくって嬉しくなりました。毎晩お疲れ様って言ってもらえると思うと1日頑張れたし」
毎日窮屈で馬鹿にされる友人関係が嫌になっても、チャットでゆうさんから「お疲れ様」って言ってもらえると嬉しくて、嫌なことも吹き飛んだ。
「・・・本当に毎日助けてもらってるんです」
言いながら自分で納得する。そうか、ゆうさんは私にとってすごく大きな存在なんだなぁ。他人からすればくだらない話しも聞いてくれて、関心を持ってくれる相手。目線を上げると、優しい笑顔が目に入った。労わりも含んだような、そんな笑顔。
「よーし、よーし」
ゆうさんが頭を撫でてくれる。心地良い。きっと妹にするような感じなんだろうけど。それでも嬉しい。ゆうさんは私の頭から手を離すと
「なにかあった?俺でよければ相談のるからね」
優しくそう言ってくれた。
「あ、はは。大丈夫です。すいません。何か変な感じになっちゃいましたね。そういえば、ゆうさんは大学どうですか?」
ぎこちなく話題をふる。出来るだけ明るく笑いながら、内心ため息をつく。本当は相談したい。でも、重いとかくだらないとか思われたら?ゆうさんが優しいのも、話しを聞いてくれるのも分かってるのに、その考えが邪魔をして言い出せない。せっかくできたお話し出来る友達だからこそ。
「ごめんね。遅くまで付き合わせちゃって」
「いえ、こちらこそ買い物付き合ってもらっちゃいましたし」
あの後、色々な話しをした。お互いの学校の事、最近の事とか色々。ゆうさんは私の話しを相槌を打ちながら聞いてくれた。チャットとは違う感覚にドキドキとくすぐったさを感じた。そしてあれこれと話していたら日が暮れてしまった。
「ごちそうさまでした。ありがとうございます」
「いえいえ。こんなんじゃ足りないけど、今日のお礼」
さっきの喫茶店は奢ってもらってしまった。今日のお礼と言っていたけど、お礼なんてしてもらうことしていない。むしろこっちがお礼をした方が良いのでは。何だか申し訳ない。
「本当に今日はありがとう。ことりちゃんに会えて良かった」
「こちらこそ、私も会えて良かったです。」
「・・・本当に?また会ってくれる?」
「はい、もちろん。こちらこそお願いします」
ゆうさんが子犬の様な顔で聞いてくるので、思わず即答してしまった。でも嬉しい。また会いたいと思ってくれたのなら素直に嬉しい。私の答えを聞いてゆうさんが嬉しそうに微笑んでくれた。
「じゃあまた連絡するね。今日は気を付けて帰ってね」
「はい。ありがとうございます。それじゃあ」
ゆうさんに軽くお辞儀をして、ホームに向かって歩き出す。さっきまでゆうさんと一緒にいたのに、まだ夢見心地になる。すごく良い人だった。思ってた通りの優しい人だった。どちらかというと地味で、学校でも数人顔の狭い私にはこの数時間は非現実的な出来事に感じた。ゆうさんの笑顔や言葉が頭の中を反芻する。電車に乗っても、家に着いても私の脳内はそれでいっぱいだった。
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