足踏み
4ー6
ケーキを食べ終わって、少しだけことりさんと話した後帰ることにした俺は会計を済ませて扉を開ける。ことりさんとちゃんと話せてよかったな。自分の今日の成果に満ち足りるものを感じる。・・・そういえばあの男の人、途中からいなかったな。そう思いながら階段を上がると、オレンジ色の空が視界に広がり始めた。少しの間そこに佇んで空をぼーっと眺めていると頭上から足音が聞こえた。空を眺めていた流れでその足音のする方向を目で追う。
「・・・お」
「・・・あ」
階段から降りてきたのはあの男の人だった。追記を抜いていたから間抜けな顔だったな、と自分を恥じる。
「倉庫から物取ってすぐ帰るつもりだったんだけど、悪りぃな。今から帰りか?」
「・・・はい」
男の人は笑顔で話しかけてきた。この人みたいに、人に明るくニコニコ接することができたらな。その人は視線を落として急に申し訳なさそうな顔をした。
「あ、悪い。タダで良かったんだけど・・・逆に気を使わせたよな」
多分俺が片手に財布を持ったままだったから、それを見て気づいたんだろう。自分もつられて視線を財布に落としながら、その言葉を聞いていた。そしてその言葉にビックリする。せっかく、ことりさんと話しをする時間をつくってくれたのに申し訳なさそうにさせてしまうなんて。むしろ感謝しているのに。
「いえ、あの、無償で何か頂くのは悪いですし。それにこっちこそ色々気を使ってもらって、ありがとうございました」
普段口数が少ないって言われる自分が、それに比例する言葉のボキャブラリーの中から精一杯気持ちを伝える。大した事言ってないのに自分はどっと疲れてしまう。でもその人は
「お前って俺が見てた限りじゃ、ずっと謝ってばっかりだったから。なんか今安心したわ」
と、いっそう笑顔になった。過去の自分を思い出してみる。そういえば、そうかもしれない。意識してそうしてた訳ではないけど、人からしたら謝られてばっかはキツイよな。
「ことりちゃんとは・・・まぁ、個人的な事聞いて悪いんだけど、ことりちゃんとは友達か?それとも・・・」
少しだけ神妙な面持ちで聞かれる。友達という言葉に心臓の鼓動が早まる気がした。そうだ、望んでもいいならーーー
「ことりさんとお友達になりたいです」
細々と言うと、その人は急に目を大きくし、俺を見つめた。・・・やっぱり、何かおかしかったんだろうか?
「あははっ、悪い悪い。俺はつい・・・。しかし、見ために似合わずうぶだな〜」
その人は声を出して笑った。自分の発言がそんなにおかしかったのか。まぁ、確かにこの人にそんな事言っても何もはじまらないしな。恥ずかしくなって視線を逸らす。
「さっきみたいに"ありがとう"って言って言われれば相手は嬉しいと思うけどな」
言われて視線を戻す。
「それに今みたいに伝えればいいんじゃないか?」
またビックリする。ほぼ初対面なのに、こんなしょうもない事に答えてくれる。義理堅い人なんだな。さっきのアドバイスを心の中で復唱する。努力しないと何もはじまらないよな。頑張ります、と返すと優しい笑顔で返された。
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