足踏み
4ー1
カランカランッ
黒く重そうな外見のドアを引くと、ドアの上端に付いているドアベルがか細く鳴る。この音を聞くたびにこの店に来たことを実感する。少し暗めの通路を歩くとすぐにカウンターキッチンが目に入った。いつもそこで何か作業をしていて笑顔で迎えてくれる翔梧さんは、今日はカウンターに座っていた。ドアベルの音か足音か、今日も声をかける前に振り向いて笑いかけてくれた。
「いらっしゃい、ことりちゃん」
「今日もおじゃまします」
翔梧さんはにかっと笑いながらイスを勧めてくれた。イスに座りながら隣に座る翔梧さんを見やる。珍しく雑誌を読んでいるみたいで、眠たそうにページをめくっていた。普段カウンター越しに立っている翔梧さんを見てたけど、こうやって見ると思ってたより大きいな。平均男性より高い身長に、程よくついた筋肉。健康的でお兄さんなイメージで話しやすい人だ。そんなこともあって最近はここに来るのが日課になりつつある。そういえば今日は佑さんいないみたい。
「あぁ、佑は今日は来てないな」
「あ、いや、別にそういうのじゃっ・・・」
無意識に探す仕草をしていたのか、そんな私に翔梧さんが教えてくれた。何だか自分の行動がわかりやすくて恥ずかしい。顔が熱くなるのがわかる。
「そういや、こうやって2人で話すのって初めてかもな。今日は旭もサクもいないしな」
「1人なんですか?大変ですね」
「まぁ他にもバイトがいるしな。それに見ての通り今日は客入り悪くて暇なんだよな。なんか飲むか?」
さっきまで読んでいた雑誌をぴらぴらっこちらに見せてから翔梧さんはキッチン側に入って行った。私はオレンジジュースを注文して、すぐに手際良く用意してくれる翔梧さんを眺めていた。最近ずっとモヤモヤと考えていたことを再び思い出す。今日は翔梧さんだけだし、聞いてみようかな。
「あの、」
「んー?」
「あれから一週間経つんですが、蓮さんはここに来てませんか?」
「あー・・・いや、それっぽいやつは見てないな。俺も気になってはいるんだけど」
「そうですか・・・」
あの雨の日から一週間経った。佑さんとお話してから少しして戻ると、蓮さんはいなくなっていた。翔梧さんにもものすごく申し訳なさそうに謝らせてしまって、あの日の自分の行動の選択は正しかったのか、とかもっとちゃんとしてればとか考えてしまう。蓮さんを連れて来たのは自分なのに。はぁ、とため息がでる。ここ一週間同じことを考えて、同じところでため息をつく。学校まで謝りに言った方がいいのかな、それこそ迷惑じゃないのかな。そんなこと考えて、結局ここに来てくれるかもという希望にかけて毎日ここで待つことしか出来ない。自分がいない時に来ているかなと思って聞いてみたけど、来ていないみたいだ。またため息をつきそうな時に急に翔梧さんが私の頭をなでた。
「大丈夫だよ。タオル返しに来るって言ってたし。何かモヤモヤしてんなら、そん時にあいつと話せばいいし。そんな思いつめたらダメだぞ」
「・・・はい、ありがとうございます」
また私の頭をなでながら翔梧さんが笑った。少し気持ちが楽になった。ここでため息ついて、人に心配かけててもいけないし。蓮さんが来てくれたら、その時謝ろう。
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