[携帯モード] [URL送信]

足踏み
1ー3




あの日から今日まで何度あの出来事が夢じゃないか確認したことか。あの後、ゆうさんと会う日にちを相談し合った。そしてその日が今日なのだ。ここ数カ月ほぼ毎晩お話ししてたけど、それはあくまでネットの中だった。だから今も夢見心地な訳で。でもそれも今日の放課後になれば夢か現実かわかる。ついにって言ってもあの日からたった3日しか経ってないけど。今日本物のゆうさんに会えるーーーそう思う度、すごくドキドキした。私の心臓はもう今から緊張しているらしい。

「でね、そのコンパがね・・・」

マキちゃんの話しもあまり耳に入らなかった。残りの授業は2限。もう少し・・・そう思ったらまたドキドキした。


いろんな意味で待ちに待った放課後になった。いつもはマキちゃんやナチちゃんの話しに付き合わされるけど、今日はゆうさんとの待ち合わせ場所に直行。ひと気のない所で会うのは怖いだろうから、と配慮してくれて下校途中で通過する駅を待ち合わせ場所にしてくれた。気を使ってくれる人だから、きっと本物ののゆうさんもいい人だと思う。連絡取れるようにと電話番号とメールアドレスも交換した。段々とゆうさんがネットの中だけの存在じゃなくなってきている。

「・・・メール」

丁度目的の駅に着き、下車した時携帯電話が震えた。ゆうさんからのメールだ。

『学校お疲れ様。着いたら電話してもらっていいかな?』

まだ待ち合わせ時間には少し余裕がある。が、ゆうさんを待たせるのは嫌なので私は慌てて目的地へと向かい走り出した。

「・・・着いた。えっと、ゆうさんは・・・」

待ち合わせ場所は駅のコンコース中央の大きな人工ツリーがある場所。クリスマスになるとこの人工ツリーが綺麗にライトアップされる。よく待ち合わせなどに使われる場所だ。今も数人がツリーの近くで時計を見たり、携帯電話をいじったりしている。ゆうさんはもういるのだろか?今まで顔を見せ合ったりしていないので、ゆうさんの顔を知らない。ゆうさんは前にピアスを開けたことも、髪を染めたこともないと言っていた。きっとチャラチャラしたタイプではなく、大人しめな落ち着きのある人なのだと勝手に予測する。それも踏まえて辺りの人を確認する。それっぽい男の人がいた。大人しめの顔立ちの大学生くらいの見た目の人。でもとても優しそうな顔をしている。が、確証がないのでゆうさんに電話をかける。するとその人が上着のポケットから電話を取り出した。間違いなさそうだ。

「ゆうさんですか?お待たせして申し訳ありません。今ついたんですけど。」
『ふふっ、なんかカタいなぁ。大丈夫、全然待ってないよ。気にしないで』
「ゆうさん見つけたと思います。今行きますね」
『ブレザーの制服の子だよね?わかった。待ってるね』

通話を終え、小走りで走り出す。想像してた以上に優しい声の人だった。思わず、頬が緩む。緊張するけど、それ以上に会いたい気持ちが強い。段々ゆうさんに近づいていく。目が合った。声をかけようとした、その時ーーー

「ことりちゃん?」
「・・・え?」

横から突然腕を掴まれた。掴まれたけど、とても弱く掴んでいて痛みも何もない。その手の主を振り返ると男の人が焦ったような、驚いたような顔でこちらを見つめていた。でもこの声はー・・・

「ことりちゃんだよね?」
「え、ゆうさん・・・ですか?」

この声はさっき電話越しに聞いたあの声だ。

「通り過ぎようとするから本当に焦った。よかった、ちゃんと会えて。初めまして、佑です」
「初めまして、ことりです」

安心した様に笑うゆうさんが、私の腕を掴んでいた手を優しく放した。そんなゆうさんを失礼ながら一瞥する。正直、今すごくビックリしている。髪は茶髪でワックスか何かをつけているのか、フワフワとしている。体も痩せ型で、スラっとしているが決してなよなよしている印象は受けない。そんな見た目を裏切らない整った顔立ち。パッチリとした目を細めて、爽やかに笑っている。この人が本当にゆうさんなのか。

「あの男の人だと思った?」
「・・・はい」

さっきの男の人を視線で示しながら、ゆうさんが尋ねてきた。勝手な想像で嫌な思いをさせてしまったのだろうか。確かにあの人はゆうさんに比べれば地味な顔立ちかもしれないが、優しそうな人だ。優しそうなところがゆうさんぽいな、と思ったのだが本人は不快に感じたのだろうか。

「優しそうな人だね。嬉しいけどハードル高いなぁ」

そう言って少し照れくさそうにゆうさんが笑った。・・・これは喜んでくれているのかな。少なくとも嫌な思いはしてなさそうだ。

「立ち話もなんだし、そろそろどこか行こっか」

ホッとしているのも束の間、ゆうさんがこちらを伺いながら、ゆっくり歩き出した。隣りを歩くのが何となく恥ずかしくって、数歩後ろを歩く。細身だけど、女の子とは違う広い背中。そう思って背中を見つめていたら、ゆうさんが顔を少しだけこちらに向け、優しく微笑んでくれた。その後、私の隣りを歩き出した。もしかして気を使ってくれたのかな?何だか居た堪れなくなって話題をふる。

「ゆうさんって髪、染めてらしたんですか?」
「あ、これ?俺もともと髪の色素が薄いんだよね」

自分の髪の毛をいじりながらゆうさんが笑う。「それにほら、ピアス開けてないよ」と今度は耳に触れながら教えてくれた。ゆうさんはそんな装飾なくっても、人の目にとまるんだろうな。顔も目が大きくて童顔っぽい印象で目立ちそうだ。

「あ、これ可愛いよ」

何気なく歩いていたけど、どうやら今駅内のショッピングモールを歩いていたらしい。施設内の雑貨屋の前でゆうさんが私を手招きした。近くによると頭に何かが触れた。

「んー、こっちの方が似合うかな?」

ゆうさんが商品の髪留めを私の髪にそえながら悩んでいる。距離が近い。顔を上げて良いのかも分からず、視線を下に下ろす。ここまで男の人と近づいたことがないため、どうしたら良いのか分からない。

「店内にもっと良いものあるかもしれないし、入ってみない?」

2人で店内に入る。ホッとため息をつく。慣れてない距離って疲れるんだなぁ。そういえば、ゆうさんは私の髪留めを探してくれているのだろうか。本来の目的を思い出し、自分も探し始める。店内は女の子が好きそうな物ばかりだった。ぬいぐるみやハンカチ、アクセサリーなど、どれも可愛い物ばかりだ。お客さんも店員さんも若い女の子な中で、唯一男性のゆうさんは悪目立ちしていなかった。むしろ下手な女の子よりこの雰囲気が似合う気がする。顔立ちが可愛いらしいからかな、とか思いながら自分も髪留めを探す。たまに他のお客さんがゆうさんを見て盛り上がっているのを感じながら。


「付き合って頂いてありがとうございました」
「いえいえ。気にいる物があって良かった」



[*前へ][次へ#]

3/8ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!