足踏み
3ー8
「拭いただけじゃあ体が冷えるだろ。ココア飲めるか?」
裏から救急箱を取り出して、ことりちゃんに出したのと同じホットココアを持って“れん”ってやつの所へ行く。着てんの制服だし、年下だろうから言葉遣いは気にしない。俺の声にふとそいつが顔を上げる。つってもタオルで顔が隠れてて表情なんて分からないけど。
「無理にとは言わないから飲めよ」
とりあえずテーブルにココアの入ったカップを置く。まずはことりちゃんの言ってた怪我を手当てするのが優先だしな。腕が怪我してるって言ってたっけな。
「怪我してんだって?手当てしてやるから・・・っ!」
「・・・あ」
腕を掴んだ瞬間、そいつは思いっきり腕を引っ込めた。拒否されたんだな。なんて呑気に思う。すると
「・・・ごめんなさい」
弱々しく声が聞こえた。俯いてるのは分かる。罪悪感を感じたのか。
「いや、こっちこそ悪いな。いきなり他人に触られんのは嫌だよな。自分で消毒出来るか?ここに置いとくから」
顔が見えない相手って対処に困るな。少し距離を置いた方がいいのか?なんて思っていたら急にそいつが立ち上がった。
「いろいろ助けてもらってすいませんでした。ことりさんにごめんって伝えてください。これ、お店のでしょうから今度洗濯してお返しします。それと、さっきは本当にごめんなさい」
「あ、おい!」
そう言ってそいつはあっという間に店から出て行った。ぽつんと1人残される。辺りを見渡すと、救急箱にココアの入ったカップ。なんも使わずに帰ってったなー。とか思いながらふと“れん”の腕を思い出す。掴んだ時にすっごい細く感じた。それにすっごい白かった。なんか他人を不安にさせるやつだな。あいつの「ごめんなさい」が少し頭の中をこだました。
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