[携帯モード] [URL送信]

足踏み
3ー7
さっき居た場所から死角になっている個室の様に壁に囲まれた席に佑さんは居た。テーブル一面に参考書やらプリントやら置いてあり、大変なんだなと改めて思う。用紙に何かを書き込む佑さんの姿が真剣で話しかけるのが躊躇われた。

「お疲れ様です、佑さん」

小さく声をかけると、用紙に向いていた視線がこちらに向く。佑さんは少し驚いた様な顔をして、すぐに

「びっくりした。こんばんは、ことりちゃん」

とふわりと笑いかけてくれた。いつも通りの優しい笑顔につられて私も笑顔になる。私が羽織っていたタオルを見て、佑さんは不思議そうに首を傾げた。

「?それどうしたの?」
「さっき雨に当たっちゃって。これはお店にお借りしたんです」
「雨降ってたんだ。大変だったね。寒くない?」
「はい、大丈夫です。ありがとうございます」

そう言うと佑さんが安心した様に笑ったそれから私に「座って」と言って自分の右隣を軽くぽんぽんっと叩いた。それからテーブルの上の用紙や参考書を片付け始めた。

「あ、気にしないで下さい!邪魔はしないので」
「ううん、大丈夫。何か煮詰まっちゃって。続きは家に帰ってからするよ。だから少し話しの相手してくれない?」

佑さんの可愛らしい顔に見つめられる。お言葉に甘えて隣に座る。自分の持ってきた袋に気付き、本来の目的を思い出す。

「今日はお疲れ様です。佑さんが忙しい時に遊びに行っちゃって悪いなぁって。いつもお世話になっているので、少しでもお礼が出来たらいいかなぁと思って。これ・・・」
「?開けていい?」

袋を差し出すと佑さんが不思議そうに受け取って、中を見た。中にはチョコやら飴やらいろいろ入っている。佑さんは目を丸くして袋の中を眺めていた。

「コンビニで買ったもので申し訳ないんですが、糖分とったり出来たらいいかなぁと思って・・・。あ、でもここに居たら翔梧さんや佐久間さん達が美味しい甘い物を作ってくれますよね・・・。他にも栄養ドリンクとか、目元があったかくなるアイマスクとかあったのでよかったら使って下さい」

翔梧さんと話していた時以上にしどろもどろに言う。コンビニで探していた時はこれは役立つかなとか、これは好きかなとか喜んでもらおうと一生懸命だった。でもいざとなると不安になる。しょうもない物だったからもとかいろいろマイナスに考えてしまう。もう渡しちゃったけど。不安になって佑さんを見ると、目が合った。隣に座ってるから見つめ合うくらいの距離で。その距離で佑さんは、やっぱり端正だなぁと再確認させる笑顔で「ありがとう」と言った。そしてまた袋の中を見つめ、面白そうに少し笑ってから

「これだけしてもらえたらレポート頑張れるね。ありがとう、ことりちゃん」

と言ってくれた。いつもの手本の様に優しい笑顔と違う、少し崩したような笑顔。でも人らしいというか、もっと佑さんを見れた気がして嬉しくなる。

「旭と仲良さそうだったから少し寂しかったんだよね」
「?」

ぽつりと佑さんが呟いた。すぐに「なんてね」と照れた様に笑った。なんだか恥ずかしくって下を向く。何だか期待というか勘違いをしてしまいそうだ。でも、そんな風に言ってもらえて素直に嬉しい。心がすごく満たされて、微笑む佑さんに笑い返した。



[*前へ][次へ#]

7/9ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!