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足踏み
3ー6

その後はお互いに何も言わなかった。気が付けば2人とも雨に濡れていて、とにかく雨の当たらない所に行こうと蓮さんを連れてユートピアまでやってきた。迷惑だろうと分かっていたが、近場ではここしか思い付かなかったのだ。そんな私達を翔梧さんが笑いながら迎えてくれた。

「すいません。こんなで来ちゃって。しかもタオルお借りしちゃって」
「あー、気にすんな。それより早く体乾かせよー?女の子は体冷やしちゃ大変だからな。これ飲んで温まってな」

翔梧さんが温かい笑顔でホットココアを差し出してくれた。優しい人だなぁ、と心がじーんとする。タオルも貸してもらって、もう体のもうも大体乾いた。ちら、と視線を蓮さんに移す。翔梧さんもつられてそちらに視線を移す。蓮さんは翔梧さんから受け取ったタオルで頭を覆っていて表情は見えない。

「あの、実は蓮さん腕を怪我してて・・・」
「ん、わかった。消毒できるもん持ってくるわ」

タオルも貸してもらって、ココアも頂いてしまって申し訳ないけど蓮さんの腕の怪我をどうにかしなくちゃ。しどろもどろに言う私が全てを言い切る前に翔梧さんは立ち上がった。ぽんぽんって頭を撫でてくれた。お兄さんって感じの人だなぁ。

「あいつは俺が見てるから。悪いけどことりちゃんは佑のとこに行って来てくれるか?向こうに居るから」

そう言って翔梧さんは厨房の奥にある扉の中に入って行った。蓮さんを置いて行っていいのかな。連れて来たのに勝手に居なくなったら無責任というか、失礼じゃないかな。と心の中でいろいろ考えて戸惑っていると

「俺は平気だから」

と蓮さんが私の方を向いて言った。ちゃんと顔を見せてくれている。「だから少しここで休ませて」と付け足して蓮さんはまたタオルを頭から被った。さっきの蓮さんを思い出して、今は女の私に心配される方が嫌なのかもと思って、私はコンビニ袋とココアを手に佑さんの所へ向かった。



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あきゅろす。
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