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足踏み
3ー5

「あれー?お前もしかして蓮?」

背後から聞き覚えのない声が聞こえた。蓮さんの制服を拭くのをやめ、声の方に向く。声をかけて来たのは制服を着崩し、だらけた姿勢で立つ男の人だった。その人の少し後ろに3人の、取り巻きの様な人達がいる。

「羨ましいねぇ。可愛い女の子とデートかよ。いきなり転校したかと思ったら・・・まぁ、あいつにあんだけ言われりゃ転校したくもなるか」

ニタニタと笑いながら男の人は蓮さんに言う。後ろで取り巻きの人達も同じ表情でこちらを伺っている。何がなんだか分からないが、転校したとはどういうことだろうか。あいつって誰だろう。蓮さんの顔を見上げる。蓮さんは困惑している様で、男の人を見つめたまま動かなかった。

「でもまぁ・・・」

そう呟いて男の人がすっと蓮さんの目の前まで近づいて耳打ちをする。

「・・・いっ」

蓮さんが小さく呻いた。見ると男の人の右手が蓮さんの左腕を掴み、深く爪を立てていた。強く食い込んで見るからに痛そうだ。男の人は満足そうに笑っている。ゾッとするくらい嬉しそうな笑みだった。

「やめて下さい!!」

慌てて男の人の手を引き剥がす。予想外の出来事だったのか男の人の手は案外容易く離れた。

「ぶっ・・・あはははは!!」

何が面白いのか男の人は突然大声で笑出した。

「女の子に守ってもらっちゃって。いーねぇーモテモテで。お前は人に守ってもらわなきゃ何にも出来ないもんな。精々その子に愛想尽かされない様にしろよ?じゃーな」

ニタニタとしたまま男の人は取り巻きの人と共に去って行った。何でそんなに蓮さんにきつく当たるのだろう。

「蓮さん大丈夫ですか?・・・蓮さん!?」

気が付いたら蓮さんが居なくなっていた。というか傘もなくフラフラと通りを歩き出していた。

「雨に濡れちゃいますよ?それに腕も怪我してるし」
「気持ち悪いでしょ」
「え?」

慌てて駆け寄って傘を差し出す私に蓮さんはぽつりと言った。どういう意味か分からず思わず聞き返す。

「あんだけ言われて言い返せもせず、手を振り解く力もない。女の子の君に助けてもらって・・・気持ち悪いよ」

蓮さんが弱々しい声で言う。最後の言葉は自分自身に言っている様に聞こえた。顔も雨でよく分からないが泣いている様に見えた。さっきの男の人が蓮さんとどういう関係で、蓮さんがどんな気持ちでいたのか全然分からない。でもそんな弱々しい姿で泣きそうな顔をして欲しくない。自分を卑下して欲しくない。自分が蓮さんだったら、そう思ったらまるでこの世にひとりぼっちの様なそんな感覚に捕らわれた。

「気持ち悪くなんかないです。自分のことをそんな風に言わないで・・・」

だからって説教たれることも、自分勝手に励ますことも出来ないで私は蓮さんの腕に触れ、お願いすることしか出来なかった。蓮さんは何も言わず私を見ていた。




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