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足踏み
3ー2
「ことりちゃん、いらっしゃい。何日ぶりだ?」
「こんにちは。3日ぶりですかね?」
さっきのことで軽く自己嫌悪に陥っていると、翔梧がドアの方に笑いかけた。翔梧が口にした名前と、ドアの方から聞こえる声に振り返る。

「ゆうさん、お久しぶりです」
「久しぶり。学校お疲れ様、ことりちゃん」

俺の顔をみてことりちゃんがふわっと微笑んだ。慌てて自分も笑顔をつくる。促すと俺の隣にちょこんと座った。

「急にごめんなさい。ここに来てくれてて助かりました」

ほんの20分前くらいにことりちゃんからメールがきた。この店にいたら会いたい、といった内容だった。断る理由なんてなかったし、会えるのは嬉しいんだけど、今の沈んだ気持ちが顔に出そうで心配になる。今までも上手に出来たし大丈夫だよね、なんて自分に言い聞かせてみるけど。

「今日はどうしたの?急に」
「あの、ゆうさんは明日何か予定がありますか?」
「・・・明日はレポート仕上げようと思ってるけど」
「あ、そうでしたか・・・。実は人からライブのチケットもらってたんですけど、また今度何かあったら誘いますね」

一瞬だけしゅん、とした表情をしたことりちゃんが笑顔でそう言った。え、何かしくじったかも。

「あー、だからさっきすっごく忙しいって言ってたんですね!」
「やっぱり大学のレポートってそんなに難しいんですか?」

旭の納得した様な言葉に、ことりちゃんが心配そうに俺を見た。旭、さっきのは口実だから。どうしようもなく、2人に適当な返事と笑顔を返しておく。旭の隣で翔梧が手で顔を隠し、声を殺して笑っていた。よし、後で潰そう。

「ところで何のバンドですか?」
「んー、私は詳しくないから分からないけど・・・コレ、旭くん知ってる?」

ことりちゃんがチケットらしきものを旭に渡す。その前に旭には敬語じゃないけど、そんなに親しかったっけ?

「え、このバンド俺すっごい好きなんですよ!!」
「ふーん、そんな有名なのか?」
「まだ知ってる人少ないですけど、それでも作る曲がいいんですよね!あとボーカルの子がいい声してるんです!」

チケットを見て旭が目を輝かせた。翔梧の質問に答える感じからして、どうやらそのバンドのファンらしい。

「ことりさん、俺と一緒じゃダメですか?」

小首をかしげ、大きな目でことりちゃんを見つめて旭が言う。

「全然ダメじゃないよ。うん、一緒に行こう」
「本当ですか!わぁーい!ことりさん大好きです!!」
「わぁっ」

満面の笑みで旭がことりちゃんに抱きついた。驚きと恥ずかしさからか、ことりちゃんは頬を赤くして固まっている。翔梧が小声で「佑。顔、顔」と言っているけど、それどころじゃない。

「じゃあこの日はどこで待ち合わせます?あ、迎えに行きますよ!」

旭がニコニコと当日の予定をことりちゃんに提案し始めた。完全に蚊帳の外だ。

「あのー、佑さん?二回目ですけど顔大丈夫ですか?」

翔梧がもう一度聞いてきた。にこりと爽やかに返す。

「えー?何でー?僕すっっごく笑顔じゃない」
「爽やか過ぎて逆にこえーよ。あと棒読みやめろ。思わぬ敵だな。お前お得意の愛らしい爽やか系だな」
「嫌味か。でも俺とは全然違うよ」
「?なんで?」
「俺はあんな無添加の可愛らしさは持ってない」
「自虐か」

自己嫌悪に、ことりちゃんを独占されたことへのよく分からないモヤモヤ感が加えられ、思いっきり項垂れた。



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あきゅろす。
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