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足踏み
3ー1

「ねぇ〜、こっち向いてよー」
「あ、ごめん。今忙しいから」

目の前に男女が2人。いつもと変わらない平日。そう混む時間帯でもないので、とりあえず目の前の2人の飲み物を旭と用意する。その2人とは、高校時代からの付き合いの佑と、佑と同じ大学に通う佑に好意をよせているらしい女の子の明美ちゃん。この明美ちゃん、佑の性格を知っている女にしては珍しく今だにベタベタとアタックしている。最初は激しく罵倒していた佑だが、あまりにも粘着的な明美ちゃんに諦めモードの様だ。今も明美ちゃんが甘ったるい猫撫で声で気を引こうとするが佑は読んでいる漫画から目を離さない。そうか、放置SMか佑。

「翔梧〜、この本の続きは〜?」
「俺の漫画じゃねぇ。旭に聞いてみろ」
「旭ー、この漫画の続き読みたいんだけどー」
「はいはーい、ただいまー」
「ちょっとー!それ読み終わったんなら相手しなさいよねー!」

なおも明美ちゃんを無視して漫画を読みふける佑。明美ちゃんは面白くないらしく、ふくれっ面だ。

「はい、お待たせ。ミルクココアとアイスティーな」

2人の目の前にそれぞれの飲み物をだす。

「ありがと翔梧」
「わーい、ありがとっ翔梧っ」

お手本の様に爽やかに笑う佑と、少し派手すぎるメイクで作られた顔で笑う明美ちゃん。どうでもいいけど、俺明美ちゃんと会うの今日で2回目なのに既に呼び捨てか。そんな話しもしてないのにな。

「佑も翔梧みたいに私に優しくしてよねぇー。あっ、ねぇねぇ今度デートしよっ」
「これでも充分優しいつもりだけどね」

腕を絡めようとする明美ちゃんに、佑が清々しい笑顔でエルボーを食らわしていた。・・・女の子だそ。

「ちょっとー!?痛いじゃん!何でデート出来ないの?」
「あー、ごめん。本当忙しいから。当分無理だね。10年くらい」

エルボーに負けず、果敢に問いただす明美ちゃん。ぶっちゃけエルボーにも屈しない姿を褒めてやりたいくらいだ。呆れながらその光景を見ていたら佑の携帯が震えた。メールか、なんて思いながら携帯を確認する佑を眺めていたら、佑が目を見開いた。

「ごめん。今日はもう帰ってくれない?今から会う人がいるんだよね」
「はぁ!?何それ!せっかく会いに来たのに!何でそんなに冷たいわけ?」
「俺がこういう性格なの知ってても、会いに来たのはそっちでしょ?嫌なら来なきゃいい。俺なんかに関わってもいいことないから」

ついに明美ちゃんがキレ始めた。あんだけされりゃ怒るよな。が、佑の言葉を聞いて明美ちゃんは悲しそうな顔をして言った。

「大丈夫だよ、佑?私はそんな佑でも受けとめてあげる覚悟は出来てるよ。そういうところも含めて好きだよ?」

隣で旭が「ひゃー」と少し顔を赤くしながら呟いた。甘いねぇ。そういうのは家でやってくれよ。2人っきりで。

「そういうの本気でやめてくれない。吐き気がする」

佑の低い声に、明美ちゃんも俺らもしん、となる。明美ちゃんの言葉を聞いた途端佑の様子が変わった。強い拒絶に満ちた表情で明美ちゃんを睨みつける佑。その顔はどこか苦しそうで、俺は内心驚いていた。

「・・・っもういい!」

唇を噛み締め、目を赤くしていた明美ちゃんが突然立ち上がり、小走りでドアに向かう。少ししてドアの方から大きな音がした。帰ったんだな、とホッとする。最近じゃあ大学でも常にベタベタと佑にくっついていた様だが、もうそれもないだろうな。多分。

ガチャッ

ドアの開く音がした。客か、それともまさかの明美ちゃんかなんて考えながらそちらを見やる。と、数日前に佑が連れて来たことりちゃんがひょこっと顔を出した。



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あきゅろす。
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