森先生はあたしを見つめて、優しく微笑む。

 何を話そう、挨拶を返せばいいのかと一言目を考えては焦るのを悟られないようにと必死になるあたしに構わず、先生は教卓の前の椅子に腰かけた。



 生徒が教卓にいて、先生が席に着いている光景が異様だった。



「森先生……」

「土見先生は余計なことまで喋ったことと思います。あの人は昔からああいう人です。僕にはないひょうきんさがあるのが時々羨ましくもなります」



 森先生は机の上に組んだ両手を置いて、それに視線を落としながら話す。

 その机はこのクラスで割と小さめの女子の席であるため、森先生が座るには少し窮屈であるようで、あたしは何気なくその姿勢に目が行った。

 ドミとは違って変なしわもなくきれいなスーツが良く似合う人。



「けれども土見先生は余計なことだけじゃなくてきちんと僕の気持ちを伝えました。情けないことに自分から一歩を踏み出すことができなかった僕ですが、先生に背中を押されたお陰でこれからは自分で行動したくなりました」



 相槌さえ見せないあたしに森先生は流暢に喋り続ける。



「好きです。恵さん」



 そのとき周りの景色が何も見えなくなって、雑音も耳に届かなくなって、先生だけが視界にいて、先生の言葉だけが鮮明に聞こえて。

 心臓が急に苦しくなり始めて、あたしは自分がたぶん混乱しているんだろうという意識はあった。

 自分の言葉が出てこない。

 考えていることが素直に出て来ない。



「恵さんだけを想い続ける。寂しい思いはさせない。だから、僕の気持ちを受け取ってくれませんか?」

(*)backgo(#)

木春菊

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