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高校に入ってから始めたテニスにいまだなじめなくて、今日もあらぬ方向へとボールを打ち返してしまった。
後輩から空笑いで「ドンマイです」と30分前に言われたのを最後に、だんだんとテニス部が妙な空気へと変わっていくのを感じていた。
木春菊
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気を取り直し、ラケットのグリップをぐっと握り直してボールを待ち構える。
いい位置にラケットを振れた、と思った瞬間、手の汗でラケットが少し滑った気がした。
「あ」
小さな声が出たあと、ボールは、テニスコートを一周するように取り囲む背の高いフェンスを飛び越えてグラウンドへと姿を消した。
それを見ていたらしい彩子が噴き出して笑った。
「今日は4回だったね」
ボールがフェンスを飛び越えて行った回数のことだ。
キャプテンである彩子が校舎の壁に備え付けられた時計を見やりながら「今日の練習はここまで」と大きな声で言った。
それを聞いて妙な空気になっていたのが、少しだけ元に戻ったようだった。
あとでボールを取りに行かなきゃ、とボールの飛んで行ったほうを見やるとそこにドミがいた。
ドミはボールを持ち上げて、にやっと笑った。
距離があるから本当に笑ったかは分からないけど、ドミはそうやって人の失態を面白がるのが常だったから、今もきっと笑ってるに違いない。
私は不貞腐れて、ドミを睨む。
試験で誤字があったとか、授業中にとんちんかんな解答をしたとか、何気ない失態だったらあたしはドミのその笑い顔を許せていたけど、テニスに関して笑われることは何より嫌いだった。
go(#)
木春菊
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