The White Rose Of Virginity(完)
9
契約?ロイヤルはただの側近じゃねぇのか。でも契約が一体あの子とどういう関係が…。
あの子があの子ではないってどういう意味なんだよ。
「理解できねぇよ、どうしてあんたは昔からそうやって他人のためにそこまでできるんだよ」
ルークが拳を握るのが見えた。
それは微かに、本当に微かにだが震えていた。
ジューダスが他人のために動くということへの怒りなのか、悲しみなのか、寂しさなのかまでは今のカインには判断のし様がなかった。
「家族だからにきまっているだろう」
きっぱりとジューダスは迷いなく答えた。
「ノアは私の大切な妹だ。ハジもスイも血はまったくつながっていないが家族同然だ。もちろん弟であるお前もな」
おとう…と?
ルークがジューダスの弟。
二人は似ても似つかないというのに、ということはルークもイノセンスの息子で王族っていうのかよ。
足音が聞こえこっちに向かう。カインは急いで声が聞こえるぎりぎりのところで物陰に隠れた。ドアノブを握る音が聞こえる。
「あんたは俺にたくさんのものをくれた」
ルークは遠い昔を思い出すようにドアノブを握る手をジッとみた。
「名前を与え、知識を与え、愛を与え、生きる術もすべて教えた。」
思わず手に力が入る。
ジューダスは相槌を打つことはしない。
余計だと思ったからだ。このまま彼の本心を聞きたかった。
「みんなは成功したあんたを妬みいつも殺そうとしていた。でも俺はそんな感情を一切もたなかった。レインズもな、それに俺はあいつらと違ってイノセンスにかわいがられたいとか気に入られたいとか思わなかった」
レインズという名にジューダスは懐かしそうに、ルークのいつの間にか大きくなった背中を見つめ、静かに目を閉じた。
瞼の裏に浮かぶ幼き頃の記憶。
「どうしてだと思う?レインズはよくわかんねぇけど、俺は守られていたからだよ」
ルークはゆっくり息を吸いはいた。
同席している彼もまた目を開け呼吸を浅くゆっくりした。
「あんたはいつも守ってくれた、失敗した俺をいつもイノセンスから守ってくれた。いつもあんたの傍に居たせいで殺されかけた俺を守ってくれた。あんたはあそこの中で一番信用できたんだ」
だが、そこでルークは一気に殺気だった。そしてナイフを投げつけた。それは彼の頬をかすり軽く血を流させた。
「俺はあの頃とは違う!もう自分で歩ける、見てろ、絶対にてめぇをこの手で倒して超えてやるよ」
ドアが壊れるのではと思うぐらい音をたててしまった。
暗闇の中でルークが去っていくのを見守っていると突然、止まった。
「そうそう、盗み聞きなんてキモい趣味やめれば?」
それだけ言い残して再び去っていった。
「ばれてたか」
思わず苦笑が出る。
それにしてもレインズ。
どこかしっくりくる。
もしかしてイノセンスが言っていた俺の忘れている記憶。
その中にもレインズってやつが…
執務室ではジューダスは己の利き手を見つめた。
ただ見つめていた。
自分でもなにを考えていたのかはわからなかった。ただわかっているのはなんともいえない感情の波が襲っているというだけだ。
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