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The White Rose Of Virginity(完)
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「いつまでそうなさっているのですか?」


ダコタはため息をついて、目の前の少年に尋ねた。
ノアが病室を去っていったあと、アポロはダコタに頼み、病室を抜け出した。そして今いるのは、ハジがつかっていた騎士団の私室だ。


「ここに来たら、俺がなにすべきか分かる気がしたんだ」


戦争は終わった今、アポロは騎士団に在籍し続けることも、農夫として過ごすのも、はたまた別の道を歩むこともできる。だが、自分は何かしなければならないことがある、そんな気がしてアポロはここに来ていた。
アポロの右腕の服袖には風が通り抜け、左目には目の形を保つために球が入っている。眼帯には慣れてきた。



左腕だけでは体のバランスがとりにくい気がして仕方がなかった。ふと、ハジの机の上に綺麗に重ねられている本があった。とても分厚い本だ。開くと日記だった。



最初のページは十五年前のことが書かれていた。



[今日、この俺に息子ができた。夢のようだ。スラムに住んでいた頃では想像つかない幸せが溢れている。名前は昔陛下が教えてくださった神話にでていた太陽神アポロの名をとった。護るべきものが増えたことに喜んでいる自分にとまどっている自分がいる。ノアは俺がつけた名に心底納得してくれてた。騎士団は退団し田舎に移り住もうと考えている。姓も変えて妻と息子、親子三人で幸せに暮らせる土地へ、誰も俺達を知らない土地へ]


パラパラとめくると、アポロが十歳ぐらいのころの日記にたどり着いた。


[今日、数年ぶりにルークにあった。俺やノアは随分ふけてきてアポロも大きくなったが、ルークは何一つ変わっていなかった。“モノ”の恐ろしさを改めてしった。あの森の結界がとれたといっていた。いつかアポロがもう少し大きくなったら陛下たちにあわせに行こう]



読んでいくと、いつも毎日毎日ノアとアポロのことばかり書かれていた。アポロが畑仕事の手伝いを始めた、学校で成績が一番だった、かけっこが一番だったやノアが熱をだした、髪を切ってしまった。など、どうでもいいことばかり書かれていた。
日記を見ている限りわかる。ハジは本当に幸せだったのだと。
最期の日記は天地戦争前日で終わっていた。そこには一言、[絶対勝つ]とだけ書かれていた。

パラパラとめくると白紙が続いていた。しかし、最期のページに何か書かれていた。


[アポロ、お前がこれを読んでいるということは俺は死んだのだな。まぁ、覚悟の上だ。日記をみて分かるようにこの十五年間、俺は幸せだった。
元は毎日生きるのが必死だったその場暮らしのスラムの孤児だった俺が、美しい妻とかわいい息子と幸せに飢えに苦しむことなく暮らせたのだからな。アポロ、お前のことだ。責任、感じているのだろう。
どうしてお前が責任を感じている?そんな必要などない。いつも言っているだろ、俺の息子なら胸を張れってな。フィニだったか?奥さんは大事にしろよ。子供も作れ。子供は生きがいになる。
アポロ、俺は戦争が終わったらあることをしようって考えてたんだ。騎士団でもなんでもない、世界のためだけの組織をお前と作れたらいいなって。
まぁ、そんなことはいい。母さんをヨロシク頼んだ。俺は空から母さんとお前とお前の家族になる人たちを見守っているよ]



紙に雫がたれ、インクが滲んでいく。


しかし、そのアポロの顔には笑顔が溢れていた。



「決まったよ、ダコタ」


「…………」


「俺のすること」


「そうですか」


「俺は…」












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あきゅろす。
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