The White Rose Of Virginity(完) 2 「それじゃあ行ってくる。」 「気をつけてね。」 母は父に上着を着せる。アポロにはおでこにキスをした。 「ほら、シャキッとする。」 「ん〜」 市場はいつものようににぎわっていた。二人はいつものように屋台をたて、野菜と果物を置いていく。そして、売り出しを始める。売れ行きはいつも通り。繁盛。 ハジは客を売り込んでいき、アポロは裏でお会計をしていく。 「この桃、もらえるか?」 マントの大剣を背負った謎の人物が現れた。声と背丈からして男だろう。声をかけられたアポロは半目で父を見る。ハジは主婦に旬の野菜の売り込みに夢中だ。 「あ〜、一個250イール。」 マントの男は何枚か銅貨をアポロの手にのせる。 「毎度あり〜。」 マントの男は顔はよく見えないが、どこか微笑んでいるような気がした。マントの男はアポロの顔をじっくりと見ている。 「俺の顔になんかついていますか?」 「髪はノア、瞳はハジってところかな。」 「父さんと母さんのこと知ってんの?」 その瞬間、男は背中にある大剣を抜き取る。アポロはけだるそうな瞳を見開いて、すぐに反応する。隣にいたハジはアポロの前に出てきてアポロを押しのけ、そばにあった包丁を抜き取り、構える。だが男は大剣をハジが包丁を構えたのを見ると、嬉しそうに満足そうに頷き背中にしまった。すると、ハジも何かに気づき、フッと笑った。 ほんの短い動作であったため、回りの人達はあまり気づいていない。 「体、なまってなくて安心したよ。」とマントの男。 「冗談がすぎる、アポロが怪我でもしていたら俺はお前を殺してたかもしてないぞ、ユリアン。」 ハジはマントの男の胸を軽く叩き、懐かしそうに笑った。ユリアンと呼ばれた男はフードをとる。そこには美しい月のような銀色の髪と瞳が。 しりもちをついているアポロは何がなんだか分からず呆然としている。 「驚かせてすまない、私は君の父さんの友人、ユリアン・ローレンツだ。」 ユリアンは手を差し伸べ、アポロを立たせる。 「後で少し話がある、市場から少し離れた街の西の出口にある食堂で待っている。」 ユリアンの真剣な表情にハジは頷いく。ユリアンは人ごみへ消え、ハジは何事もなかったかのように売り込みを再開する。 たまにアポロは父親のことが分からなくなる。過去にきっと何か、特別なことをしていたはずだ。 父親の体には無数の傷跡がある。村にある共同風呂で昔、村人から傷跡に尋ねられたとき、父は気まずそうに 『山賊に襲われたんだ。』 と答えていた。嘘だ。アポロはすぐに分かった。なぜかわからないが直感というもので分かった。薬や日用品を買いに王都や大きい街へ行けば、父に突然、頭を下げる人や握手を求めてくる人がいる。中には涙を流しながらひたすら礼を言う人までいる。 だが、アポロはそんなことを尋ねる気はない。尋ねても答えるはずなどないのだから。 だから今回も尋ねることなどない。 [*前へ][次へ#] |