The White Rose Of Virginity(完) 4 「ユノなのかい?」 青い髪の娘が出てきた。アリューシャンの町は変わらずひどいものだった。ユノは不安げな表情でノックするとジアが出てきたのだ。 「その、久しぶり。」 できるだけ笑顔で答えた。ジアはユノを軽く抱きしめた。 「演説、最高だったよ。」 「ありがとう。」 「そっちの若人はルークかい?」 ルークは軽く頷いた。 「姉ちゃんたちから軽く話は聞いたよ、“モノ”だったんだってな。」 ジアは微笑んでルークの髪をくしゃくしゃにした。その後、ノルンとアルスとも簡単に挨拶を済ました。 「イサクはいるか?」 イサクの名前を聞いた瞬間、ジアの表情が曇った。 「奥に…いる。」 ゆりかごの中でストウは気持ちよさそうに寝ていた。 「僕等はここにいるよ。」 そういってアルスとノルンはストウの寝顔を、宝石をみるような表情でみていた。 奥の部屋ではイサクは静かに息をしていた。瞼は硬く閉じられている。 「おとといから急変してずっとこんな調子なんだよ、目を開けてもすぐ閉じて…」 ジアは顔を覆った。 「ジア…」 レインズは背中をさすってやった。 「その声は…レインズ、なのですか?」 小さな小さな声が聞こえた。イサクが目を開いていた。ジッと天井を見ている。 「あぁ、たった数日でずいぶん弱ったな。」 イサクは乾いた口角をあげた。 「どうやら、目が、見えなくなってしまったようです。」 「今日はユノとルークもいる。」 ユノとルークはイサクの手を握った。 「久しぶりね、イサク。」 「ユノですか、あなたの演説は、すばらしいものでした。」 「私よりノアのほうがすばらしかったはずよ。」 イサクは笑った。ユノはイサクから手を離した。彼の手はもう痩せ細すぎたのだ。老人のようなしわくちゃな骨ろ皮だけの手。 「子供、できてんのには驚いた。」 ルークの言葉にイサクは微笑んだ。 「ユノとレインズが君をかわいがる理由が分かりましたよ、子供はいるだけで僕たちを幸せに、してくれますね。」 ジアのすすり泣く声がイサクの耳に入った。 「ジア、どこにいるのですか?」 手を宙にのばしながらイサクは言った。ジアは涙を拭きながら、イサクの手を握った。 「ここにいるさ、いつでもあんたの傍にいるよ。」 イサクは手探りに手をジアの顔へ持っていき、涙の流れたあとをぬぐった。 「泣かないで、ジア。僕たちは本来なら十年前に死んでたはずなんですよ、なのに結婚して今では子供がいるんです。僕が死んでも、生き続けてください。」 イサクの声がだんだん小さくなっていく。ルークはイサクの心音が小さくなっていくのがわかってしまう。 “モノ”として成功して、五感が通常の何倍にもいいのだ。 「あんたが死ぬのは覚悟してたさ、でもね、あたしにはあんたがいないと無理なんだよ。」 イサクの手にしずくが落ちる。 「ストウがいるじゃないですか、ストウに僕は立派な父親だったといってください。」 「笑えない冗談だよ。」 ジアはクスッと笑った。 「笑ってるじゃないですか、笑えるんですよ。ジア、あなたは強い人です。ぼくはあなたのそんなところを、愛しているのですから。だから、ジア生きてください、僕はずっと君とストウを……愛し………」 イサクの手がジアの手から滑り落ちた。 ジアは大声で泣き始めた。 ただひたすら泣き続けた。 「イサク!!!!!!!!!」 ユノは目を背け、レインズは部屋から出て行った。ルークは目を閉じ、イサクの最後の心音を何度も思い出した。 力強い音であった。 [*前へ][次へ#] |