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短編
大鴉

ただ一息、バンは今までに無い位深くため息をついた。
「貴様らしく無いな、ため息など」
それを偶然通り掛かったトーマに聞かれた。
「悪ぃ……ちょっとさ……」
いつに無くバンは弱気だ。
「悩み事か?」
「う〜ん……悩みっていうか……」





夕日が西の地平線に沈む。砂漠の夜が迫るに連れて気温は下がり、肌寒くなる。

「ジェノザウラーを倒した時、俺は『やった!』って思ったんだ。あのレイヴンに勝った!俺は強い!けど、暫くして思った。『もしかしたら、俺はレイヴンを殺しちまったんじゃないか?』って」
トーマはただ黙ってバンの話を聞いている。

「でもシャドーがジェノザウラーから脱出するのが見えたから、大丈夫だってすぐに分かった」
「なら、何故そう思う?」
「……例えレイヴンが死ななかったとしても、俺はアイツを壊してはいないか?とか、俺のせいでレイヴンが、」
「下らんな」
弱気なバンの言葉をぴしゃりと撥ね除けた。
「なっ……俺は真剣に、」
「聞くが、貴様は誰だ?『デスザウラーを倒した英雄、バン・フライハイト』では無いのか?」
「それは周りが勝手に……」
「だから何だ?その称号も名誉もいらないとでも言うのか?貴様がどう思おうが周りが代わる事は無い。ならばそれを甘んじて受ければ良い!」
興奮したトーマはバンの胸倉を掴む。
「恐れも、後悔も、ましてや未練など我々は持ってはいけないのだ!」
「な、何、を言って……」
「貴様はもうただの『ゾイド乗り』ではない、『共和国軍バン・フライハイト少尉』だぞ!その自覚を忘れるな!」
「トーマ……」
それに、とトーマは続ける。
「貴様がそんな気弱では、俺だけでなく周りも影響されるではないか」
「……悪い……確かに、俺弱気になってたかも」
何だか申し訳無く、バンは顔をかく。
トーマに喝を入れられ、バンはさっきまでの自分を恥じた。


「だぁーー!クソッ!!」
トーマの手を振りほどき、バンは叫ぶ。
「グタグダ考えんのは止めだ!俺らしくねぇ」

バンは改めて地平線の彼方を見つめる。
「例え相手が誰だろうが、俺はもう迷わねぇ。絶対だ」
「その言葉、忘れるなよ」
「ああ……ありがとな、トーマ」
「な、何だ?急に……」
バンにいきなり礼を言われ、トーマは困惑した表情を見せる。
「トーマがここにいてくれて良かったよ。俺だけだったらどうなってたか」
「だから、そういう発言は、」
「分かってるって」
バンはグッと拳を突出す。
「頼りにしてんぜ、トーマ」
「フン……」
トーマはちょん、と拳を合わせすぐに手を下ろした。










その数分後。
基地の警報がけたたましく鳴り響いた。

バンが見つめていた地平線の向こうから、一機のレドラーが飛んで来た。




大鴉―never more―




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あきゅろす。
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