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短編
A friend in need is a friend indeed.

風が吹いた―

出会いの風だった。



―Toma's Story―
A friend in need is a friend indeed.



別に女性が嫌いなわけじゃない。
ただ、母親以外の女性と接する機会が無かっただけで、少し苦手なだけだ。

だから、今目の前に女性がいるこの状況で何を話せばいいのかまるで検討が着かない。
彼女の名はアンナ。
同じ大学の同級生で、科は違うが、構内でよく会う。
そして今日も、
「トーマ!良かったぁ、会えて」
「アンナ。どうしたんだ?」
アンナは弾む息を整える。よほど急いで来たらしく、トーマの声が微妙にうわずったのに気付いていない。
「どうしてもね、トーマに報告したい事があって」
「?」
アンナは満面の笑みを見せる。
「今度の発掘調査に、私も連れてって貰える事になったの!」
「へ、へぇ。良かったな」
アンナは心底嬉しそうに言うのに、トーマはそんな言い方しか出来なかった。
案の定アンナは不機嫌そうな顔をした。
「もっと明るい顔して言えないの?せっかく念願叶ったのに……」
アンナは考古学を選考していた。いつかは自分のチームを作って世紀の大発見をするのが夢だと言っていた。
だから今回の調査に同行できるのは、彼女にとっては夢の第一歩も同然だ。
「ほ、本当に良かったと思ってるよ……」
「本当に本当?」
アンナはずぃっとトーマに顔を近付ける。トーマは心臓がドキドキしてたまらない。
「ほ、本当だって……」
ようやく納得したのか、アンナは離れる。
そしてにっこり笑って見せる。

「それで?調査場所はどこなんだ?」
「お?ようやくトーマ殿も興味を持ちましたか?」
「……」
「今回の調査は、ガリル遺跡よ」
「ガ、ガリル遺跡って……あの辺りは今治安が悪いって聞いたが……」
「大丈夫よ。ちゃんと軍の護衛も付くし。それに、今度の調査ですごい発見したら、陛下から勲章貰えるかもしれないのよ?行かないわけにはいかないでしょ?」
「それは、そうだが……」
「今からすっごい楽しみに!早く当日にならないかしら♪」
アンナが期待に胸躍らせる中、トーマは何故か不安になった。




発掘調査当日。
トーマは前日にアンナからメールを貰った。
調査は数ヶ月の予定で、忙しくなるから連絡はとれない。帰ったら土産話を聞かせてあげるというもの。

あえて返事はしなかった。
アンナの言う通り、土産話を楽しみにしておく事にした。


それから更に数ヶ月後。
山々が色付く頃。
トーマの元に一通の郵便が届いた。

それは、









アンナが死んだと知らせる内容だった。


「……死んだ……?」

これほど『死』という言葉が理解出来なかった時は無かった。




手紙によると、調査中に近くで戦闘が起きた。安全の為、逃げる途中で流れ弾に当たってしまったらしい。

その戦闘での被害者は、アンナだけだったという。


トーマは届いた手紙を何度も何度も読み返した。
不思議と気持ちは穏やかだった。
アンナを殺したのは共和国軍だという話もあったが、違うかもしれないと言う者もいる。






何度目かの秋。
トーマは久し振りに、友の墓前に花を手向けた。
白い墓に鮮やかな花が映える。

何かを決意したような面持ちで、トーマはアンナの墓を見つめる。
「……っ」
何かを呟こうとして、トーマは口を噤んだ。
今の自分が、彼女に何を言えるのだろう?
兄程の才も無く、夢も何も無い自分が、いつも劣等感しか無い自分が歯痒い。

数分もしないうちに、トーマはその場を後にする。
しばらく歩き、トーマはふと足を止め、再び彼女を振り向いた。


「また来る」
そっと呟く。
「いつか俺が、君に誇れる男になった時に、また来るよ」
そしてまた歩き出す。



トーマは空を見上げる。

哀しみなど消し去ってしまう程の青さに、今度は期待が胸に満たされる。


一陣の風が吹いた。


一時の別れを告げているようだった。





―Toma's Story―




fin




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あきゅろす。
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