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短編
a brother

歳が離れて生まれた弟だから、最初はどう扱っていいか分からなかった。
こんなに小さくて、こんなに弱くて……
ほんの少しでも力を加えてしまったら、この小さな手は粉々に砕けてしまいそうだ。

幼いながらに『自分が守らなくては』と、兄としての自覚が自然に現われた。

それは『使命感』にも似た、

『誓い』

―a brother―


「何故、確実にコックピットを狙わなかった?一歩間違えていたら、お前は死んでいた……!」

確かに、あの時自分は「コックピットを撃て」と言った。しかし、弟はそうしなかった。

「何故……」
「『どんな時も冷静に、最後まで自分を信じて戦え』僕の最も尊敬する軍人が、昔そう教えてくれたのです」

「トーマ……!」





「『最も尊敬する軍人』、か……」
ホルスヤードでの一件の後、カールは大事をとってと、たった半日ではあるが休暇をとった。

トーマのあの言葉。
素直に嬉しかった。
だが時間が経つに連れ、無性に空しさを感じるのは何故だろう?
『最も尊敬する軍人』と言われ、嬉しいはずなのに……

「兄さん!」

トーマがやって来た。よほど走り回ったのか、息が荒い。
「こんなところにいたんですか?せっかくの半休なんですから、しっかり休まないと」
「……」
カールは答えない。
「兄さん?」
トーマは心配そうに兄の顔を覗きこむ。
「私は、」
カールはようやく言葉を吐き出す。
「お前にとって良い兄か?」
「え?」
「敵に洗脳され、弟を殺そうとした。それでも私は、お前の兄か?」
「兄さん……?」

何故こんな事を、と、カールは自分で自分が分からなくなった。
エリートと言われ、優秀な軍人と言われても、敵の力の前に自分は押し負けてしまった。
守ると誓ったたった一人の弟を、殺そうとした。

満ち溢れていたはずの自信が、初めてくずれた。

「な、何を言ってるんですか!?」
トーマは叫ぶように言った。
「俺の兄はカール・R・シュバルツ、ただ一人です。それ以外でも、ましてやそれ以下でもありません!」
「……」
トーマの自信に溢れた答に、カールはしばらく呆気に取られた。
「俺が兄さんに撃たれる時は、それは、俺の力が及ばなかった。ただそれだけです。ですが、そんな事にはなりません。俺の目標は、常に兄さんを超える事ですから」

トーマの目は、あの時の自分と同じように輝いていた。軍に入隊したばかりの、希望に満ち溢れていた、あの頃の自分と同じ。

「フッ……」
カールは小さく笑いを零す。
「そうか。私は、いつでもお前の目標か」
「はい!」
「その期待に背かぬように、私も精進しないとな」
顔を上げ、カールは弟に微笑みかけた。
トーマが見た兄の笑顔は、軍の試験に合格した時、「おめでとう」と言ってくれたあの時と同じだった。




「トーマ、久し振りに二人で飲まないか?」
「は、はい!」
トーマはパッと笑う。
その顔は幼い頃から変わらない。
「でも兄さん、この後また勤務が、」
「後でどうとでもなるだろう」
カールは弟の肩を組み歩き出す。


何も変わってはいない。

たった一人の弟を、命をかけて守りたいという気持ちは、あの頃と何も変わる事は無い。

誓ったのだから。

何よりも、自分の心に。








終。

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