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短編
A misty rain;drizzle(s)


深い霧の中。
バラッドはその一点を見つめていた。



A misty rain;drizzle(s)


一部錆び付いたネットの向こう側は、こちら側と同じような深い森だった。
濃い緑色の森と白い霧のコントラストは美しく、しかしどこか不気味さも醸し出している。
向こう側の森が違うとすれば、森の手前の土があらわになった地面。
雨風に晒されながらも、未だ黒々しく、その時の爆発の激しさと熱量を嫌でも思い出させる。

「……」

バラッドは何かを呟こうとしたらしく、慌てて口をつぐむ。

「君!」
バラッドは誰かに声を掛けられた。
「悪いがここは立入り禁止なんだ」
格好からして連盟の者だろう。
「バックドラフト団の基地があった所でね、今調査中なんだ」

外部の者にここまで喋っていいのかと、バラッドは他人事ながら不安になった。

「あれは?」
バラッドは黒い地面を目で示す。
「ああ、随分前に爆撃か何かあったみたいだね。たぶんゾイドだろう」

その言葉に、バラッドの心臓が一度大きく鼓動した。

「ところで君は?ウォーリアーかい?」
「ああ」
「こんな山奥に何しに?」

バラッドは、一瞬戸惑い、答えた。

「昔の仲間に、会いに」

彼は深く聞かず、そうかとだけ言う。
「ああ、そうだ」
男は制服のポケットから何かを取り出す。
「こんな物が落ちててね」
男が見せたのは、青い欠片だった。

「たぶんゾイドの装甲の一部だと思うんだけど、ちょっと石化が進んでてね」
「……それ、もらっていいか?」
バラッドは青いそれを指差す。
「え?あ、ああ。構わないよ。どうせ捨てられるだけだろうし」
男はバラッドの差し出した掌に青い欠片を落とす。
金属らしく、見た目よりだいぶ重い。

「ありがとう」

ギュッと握り締めると、手袋越しにその堅さが伝わる。


それから、二言三言話し、男は作業に戻って行った。

バラッドは再び黒い地面を見る。

脳裏に浮かぶのは、一緒に戦ってきた日々。

そして、最期のあの日。



バラッドは静かにその場を後にした。


小さな青い花が、ただひっそりと咲いていた。






fin.


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