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短編
王の夢
「なぁベガ、お前何で『キング』なんて呼ばれてんだ?」

それは小さな疑問だった。

ロイヤルカップが終わって数ヶ月後。ベガは暇さえあればビットを訪ね手合わせをしていた。
ただ、バーサークフューラーは再び起動するまで眠りについているので、今日はセイバータイガー、その前はディバイソンだった。


「知らない」
ベガはサラッと答える。
「知らないって、お前、自分の事だろ?」
「だって知らないもん。僕が最初に言ったんじゃないし」
「そうなのか?てか、お前いつからゾイドに乗ってるんだ?」
「ん〜…それもあんまり覚えてないなぁ。ずっと小さい時からだよ」

実際、ベガに幼い頃の記憶は曖昧なものだった。
物心ついた頃からバックドラフト団の施設にいて、そしてゾイドで戦う為の訓練を受けていた。
初めて出たゾイドバトルであっけなく勝ってしまったものだから、その様子を見た誰かが勝手に付けたのだろう。

「キング・ベガ」と……


「ビット……」
気の抜けた声でベガが言った。
「ビットは、ゾイド好き?」

言い終えて、ベガはまるで自分に問い質しているように感じた。

ゾイドバトルは好きだ。
だけどそれは、自分がゾイドで戦う事しか知らないから?ゾイドは兵器だと誰もが言う。
だけど自分だけはそうじゃ無いと思いたい。
せめて、ゾイドに乗っている時だけは……


―ゾイドは好きか?


ビットは何て答えるだろう。

「好きだぜ」
「え……」

「だって最高じゃないか。速く走れるし飛べるし、人が行けない所だってゾイドなら行ける。それに、ゾイドは戦う為だけの存在じゃない」
「……」
「俺達に色々な事を教えてくれる。俺達はゾイド無しでは生きて行けないし、人とゾイドは共に生きて行く為にいるんじゃねぇかな」


まるで小さな子どものように話すビットを見て、ベガは少し恥ずかしい気持ちになった。



―ゾイドは好きか?


そう聞かれたら迷わず自分は「好きだ」と答えるだろう。何より自分は「ゾイド乗り」なのだから。


「ベガは?ベガもゾイド好きだろ?」

「僕は、」






―ゾイドは好きか?






「うん!大好きだよ!」

そう答えてベガはにぃっと笑う。






僕はキングじゃない。
僕はただのベガ。そして、ただのゾイド乗りなんだ。



「ビット。もう一回勝負!」
「おう!」
「今度は絶対僕が勝つからね!」
「俺だって負けないぜ!」



夕陽が沈む荒野に二つの咆哮が木霊する。

ライガーゼロ対セイバータイガーのバトルが始まった。










fin



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