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静かに静かに、雪の降り積もる夜のこと。
新月から少し経ったばかりの月は細く、雲の隙間から弱々しい光を放っていた。
風も凪いでいる夜、全ての音を吸収してしまったかのように、雪は静かに降り続く。

小さな丘の上に立つ、小さなその店はそんな雪の中ひっそりと佇んでいた。
その店内で、店主は一人静かに商品の整理をしていた。
彼の纏う雰囲気は独特で、それは青年のようにも、また相当の月日を重ねた人間のそれのようにも感じさせた。

店主は作業の手をふと止めて、窓越しに外の風景を眺めた。
勢いを落とすことなく降り続く雪を見ながら、今晩は止みそうにないな、と店主はひとりごちた。
そして再び作業に戻ろうとした時、視界の隅、窓の外に何か普段とは違うものを店主は認めた。
不思議に思い、店主は入り口の扉を開け、外を見遣った。
扉の前に積もっていた雪が少し店内に入り込み、扉に付いている鐘が澄んだ音を響かせる。
店の入り口には三段しかない階段があるのだが、その下にその「何か」はあった。
店主が少し近付いてみると、人が倒れていた。
否、人が、雪に埋まっていた。





あたたかい場所。







店主が慌てて駆け寄ってその体を揺すると、その人の体からはらはらと雪が舞った。
倒れていたのは旅人のような服装をした男性で、開いた扉から零れる光に照らされてそれが分かった。
その男性は呻き声をひとつ上げると、唐突にがばりと起き上がった。
店主が突然の動きに驚いて何と声を掛けるべきか考えていると、彼が大きなくしゃみをひとつした。
店主は少し驚いて、それから微笑んだ。


「お茶でも、いかがですか」


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あきゅろす。
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