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短編小説
通常日課

俺は安達 溢。
顔も、頭もオーラも平凡。
類い希なる平凡ボーイ略して平ボーイな俺だけど、一個だけ特別なとこがある。




「おい、帰るぞ」

「うぃー」


低いテノールと共にそいつは現れた。

大雨 冴。
俺の一個上で、学校随一の不良様。
小学生の頃、高校生相手に喧嘩をして勝ったとか、こいつの功績で街の悪い集団がほとんど壊滅状態になったとか、生徒会をさしおいて裏で学校を取り仕切っているだとか。

色々と伝説を作り上げていて、ここら一帯思春期真っ盛りからお年寄りまで、みんなこいつを恐れ奉っている。

そんなやつが俺を迎えにくるわけ。それは……


「溢、どっか行きたいとことかあっか?」

「えー?…………どこでも」


俺と冴サマは、おさななじみだから。


学年は違うけど、冴はよくつまんねえとか言って俺のクラスに顔を出した。
どうやら冴が恐くて誰も話しかけて来ないみたいだ。

俺は家が近かったからいっつも遊んでいたし、家族ぐるみの付き合いもあるしで冴に恐怖なんて感じたことはない。

結果、冴は俺にベッタリになって、高校生になった今でも相棒として毎日のようにつるんでいるわけだ。


「クソガキ、どこでもいいが一番困んだよ。
あーくそ今日はどこ行っかなー」

「まっすぐ帰りゃあいいだろ?
なーんでいっつも無駄に金使わせるんだよ……」

「暇だからに決まってんだろ」

「お前の暇つぶしに俺を使うな……!」


友達がいないなら舎弟の皆さんと遊べよ……。

カラオケ、ゲーセン、etc……
毎日冴に引っ張り回されているせいで心身共に疲れがピークだ。
それにバイトもしてない俺が自由に使える金なんて微々たるものに等しい。
新しいチャリが欲しいのに貯める分の小遣いが全く残らない。


「俺にビビらねーのお前だけなんだからしょうがねーじゃん」

「自業自得だドキンパ野郎」


知ってんだぞ、お前に友好的に話しかけてくれる物好きな…………いや、勇気ある方々にまで思いっきりガンとばしてんの。

少しはコミュニケートしようとしろよなー。
ちょっとでも笑えばあそこまでビビられることはないと思うんだが……。


「で、どこいくよ」

「だからどこもいかねーっての……!」


さっきっからなんで遊びに行く気満々なんだろうなこいつ。


「いい加減おかんの料理食いたいし、今日は自宅直行な」


冴と遊ぶとき、大抵飯はファミレスとか買弁になる。
そろそろ所帯じみたお袋の味が恋しかった。

冴にそう言い聞かせると、奴は顔を輝かせた。


「溢んち行くのなんて久々じゃねーか!
いっつも連れてってくんねえのにどうゆう心境の変化だ?」


……明らかに捻れて伝わってないか!?
なんでこんなに都合よく捉えられるんだよこいつ。
呆れ果てため息を一つ。
おまえも自分ち帰るんだっての。

俺は自分の家へ向かって足を動かす。
冴を家に上げるつもりはない。

……ないけど、やつを見ると、すごく嬉しそうな顔をしていたから。


「お前、飯食ったらすぐ帰れよ」

「は?却下だろ」



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