短編小説
一生懸命愛されてるね
「冴っお前恋人出来たってまじか!?」
「はあ?」
放課後、今日は珍しく俺から冴のもとを訪れた。
友達から聞いた噂の真相を尋ねに来たわけだが、冴の表情を見ればまあ答えはわかった。
「だよなあ……。やっぱりガセだと思ったよ」
「んだよ、また変な噂でも流れてんのか」
冴がクッと目を鋭くした。
あまりの剣幕に辺りにいた人たちが一気に姿を消す。
まあでも苛立つ冴の気持ちはよくわかる。
騒いだ俺が言えることではないけど。
「なんか仲いいらしいじゃん。ミチルちゃんと」
「……誰だミチルって」
「そこからもうガセかよ!」
噂では、冴はミチルちゃん(さん?)と話すときだけはいつになく穏やかな顔をしているらしい。
そんなデレ顔の冴を拝んでみたいと思い、紹介してもらおうかとも考えていたのだがまさかの実在しない人物とは……。
「……ひょっとして冴のそっくりさんでもいるのか?」
「そうだな、仲居が影武者でも用意したかもしれねぇ」
「まさか」
現実味のない想像をして軽口をたたき合う。
しかし、そのまさか。
…………なのかはわからないが、後日、再び冴らしき人が謎の人物ミチルちゃんといちゃついているのを目撃したとの情報が入った。
その話によれば20代くらいのロングヘアの女性だそうだ。
無論冴には覚えがないらしく渋い顔をしている。
「冴、影武者ってまじでいるの?」
「馬鹿かてめぇは」
冴に言われた……。
こいつ九九すら危うい程の馬鹿なのに……。
地味にショックを受ける俺を後目に冴が不機嫌そうに眉をしかめた。
殺気立った低い声で、唸るように俺に言ってくる。
「いいか、今度その噂を広めてるやつがいたらぶち殺せ」
「わかったわかった、詳しく聞いとくから……」
「いいやぶち殺せ。そいつはデタラメ誑し込んでんだからな」
「……」
物騒なことを要求に思わず口を閉じる。
これがほんの少しでも正義感による発言だったのなら、見つけたら報告くらいはしてやるのに。
俺は相変わらずの冴の短気ぶりにやれやれと首を振った。
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